第4次産業革命で韓国社会が知能化へー韓国のビッグデータ技術動向

2022年04月20日

柳 哉秀(Yoo Jaesoo)

柳 哉秀(Yoo Jaesoo):
韓国・忠北大学校 情報通信工学部 教授

<略歴>

韓国科学技術院(KAIST)計算機科学部にて博士号を取得。1996年より現職。韓国コンテンツ協会会長を務める。専門は、ビッグデータ、グラフデータ処理、分散コンピューティング、ソーシャルメディアデータ処理。

第4次産業革命は、超連結性と超知能化の特性を備えており、すべてが相互連結し、韓国社会が知能化された社会に変化する見通しである。第4次産業革命時代には、IoT(モノのインターネット)、IoE(すべてのインターネット)により膨大なビッグデータを生成し、ビッグデータおよび人工知能(AI)を通じて解析され、超知能的な製品を生産してサービスが可能だ。第4次産業革命は、ビッグデータ、AI、IoTなどのようなデータと、ソフトウェア基盤の知能デジタル技術革命とみることができる。初期のビッグデータは、データの規模と技術的な側面から出発したが、価値のある情報を抽出する技術と活動過程を含むものへと、その意味が拡大している。すなわち、ビッグデータは収集した大容量データから生成された知識に基づいて能動的に対応するか、変化を予測するための情報化技術を総称したものであるということができる。本稿では、韓国のビッグデータ市場と政策を検討し、韓国のビッグデータ技術のレベルおよび、技術開発の動向を記述する。

成長する韓国のビッグデータ市場

ビッグデータ技術は、第4次産業革命時代に画期的な変化をもたらす、従来の産業におけるソフトウェアの融合と技術進歩のための基盤技術であり、関連需要が持続的に増加している。世界のソフトウェア市場は、AI、ビッグデータなどの新技術を活用し、商用ソフトウェア基盤の技術革新競争が加速化している。TechNavioのGlobal Big Data Marketによると、世界のビッグデータ市場は、2020年に1,388億8,600万ドルから年平均成長率10.6%に増加し、2025年には2,294億2,300万ドルに達すると予想されている。韓国IDCのビッグデータおよび分析市場の見通しによれば、2021年の韓国ビッグデータ市場の規模は、2020年に比べ5.5%増加した2兆296億ウォン(約1,960億円)と推算され、毎年平均6.9%成長し、2025年までに市場規模は2兆8,353億ウォン(約2,737億円)に達すると予測している。様々な産業におけるビジネス革新およびインサイトの導出のためのデータ活用の重要性が高まっており、ビッグデータ基盤の詳細分析および、AIシステム構築のためのデータ必要性の増加により、関連市場は持続的な成長を予測している。また、政府の積極的な支援とともに民間部門のビッグデータ投資も持続的に拡大しており、公共部門の投資も増加し続けることが予想される。

韓国のビッグデータ市場の大部分は、オラクル、マイクロソフト、IBM、SAP、SASなど、グローバルメジャー企業が掌握している。韓国のビッグデータ市場は、世界市場に比べてハードウェア市場の比重がより高いのが特徴である。韓国で注目されているビッグデータ市場は、ビッグデータサービス市場として、通信、メディア、金融、流通分野で産業間のデータを結合するか、加工するためのビッグデータシステムの投資と需要が持続的に拡大すると期待されている。

データダムで収集・活用基盤を強化

世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の傾向により、データ量が急増していることから、ビッグデータの収集、処理、分析技術に対するニーズが高まっている。米国、中国、欧州、日本などの先進国はいうまでもなく、アジア・太平洋地域の国々も、ビッグデータに対する関心が高まっており、ビッグデータを次世代産業として選定・育成するための政策を施行している。韓国では、ビッグデータが第4次産業革命時代の産業発展と価値創出の触媒としての役割を果たすことにより、データ産業の活性化戦略を通じてデータの構築、開放、保存・流通などの細部の課題を推進している。また、第4次産業革命への対応計画を通じてビッグデータの産業・公共分野における産業的活用を高めるために、ビッグデータの開放型イノベーションとインフラ構築を推進している。韓国政府は、2020年に「韓国版ニューディール総合計画」の10大課題の一つとして、「データダム」を発表した(図1および図2参照)

データダムは、データの収集・加工・取引・活用基盤を強化し、データ経済を加速化するための投資と制度改善を推進する。データ活用の拡散を図るために、既存の16のビッグデータプラットフォームと連携し、価値のあるデータを生産・供給する30ヶ所のビッグデータセンターの構築を推進している。また、データを容易に検索できる統合データ地図と公共データポータルの連携を推進している。第4次産業革命委員会は、データを体系的に収集・開放する公共・民間の様々なデータプラットフォームの市場の定着と、持続可能な成長を支援するデータプラットフォーム活性化法に関する具体的な実行計画として「官民協力基盤のデータプラットフォーム発展戦略」を発表した(図3参照)。第4次産業革命委員会では、情報主体の同意を得て、データを収集・活用するマイデータの制度発展とサービスの拡大を図るために、関係部署合同で「マイデータ発展総合政策」を発表した。科学技術情報通信部と韓国知能情報社会振興院は、データ活用ノウハウが不十分な中小企業とデータ分析専門企業とのマッチングにより、中小企業が抱えている問題を診断し、データ分析を通じて解決策を講じる中小企業ビッグデータ分析・活用支援事業を行った。科学技術情報通信部と韓国情報化振興院は、2013年から部署間のデータ連携とビッグデータ利用の活性化を推進し、懸案問題の解決に対処ためのビッグデータのモデル事業を推進している。科学技術情報通信部は、データ取引環境を構築し、維持にかかる費用、データを商品化して管理するのにかかる費用などを支援するビッグデータプラットフォームおよび、ネットワーク構築事業を推進している。

図1. 韓国版ニューディールの枠組み(出典:韓国版ニューディール総合計画、2020)

図2. データダム戦略(出典:韓国版ニューディール総合計画、2020)

図3. 官民協力基盤のデータプラットフォーム発展戦略(出典:第4次産業革命委員会、2021)

ビッグデータ応用で国際標準での優位を確保

韓国は、第4次産業革命の核心的な成長の原動力としてD.N.A.(Data、Network、AI)技術活性化戦略を推進しており、国際標準化に関する機関であるISO、JTC1、ITU-Tと事実の標準化機関であるW3Cなどで強力な標準化を進めている。ビッグデータの概念やエコシステムモデルに関する内容を含む標準化は、2015年にITU-T世界標準とTTA SPG22韓国標準が制定され、ISO/IEC JTC 1でWG 9 Big Dataを通じてビッグデータの概念および語彙に対する標準化を進めている。韓国では、ビッグデータ応用サービスに対する標準での優位を持続的に確保し、標準の拡散を通じた韓国内の関連産業の競争力強化のため先導競争戦略を選定している。韓国は、2016年にビッグデータサービスを実現するための機能の要素を定義するビッグデータ参照構造標準がTTAビッグデータPGを通じて開発を完了した。ビッグデータの需要者を中心とした技術標準化を推進するために、技術および製品に対する開放型標準規格を開発し、製品間(HW、SWソリューションなど)の互換性を提供し、韓国ビッグデータ産業の活性化と国際標準化による技術競争力を確保している。最近、韓国のビッグデータ標準化は、JTC1を中心にビッグデータの分析およびAIを包括するデータ品質に関する標準化が推進されており、ITU-T SG13ではビッグデータの流通および共有、データ履歴管理関連の標準開発が進められている。

国際的競争力の上昇...積極的な研究開発投資

韓国は、世界的なレベルのICTインフラを保有しているが、ビッグデータを活用できるデータ量が不十分であり、技術レベルも先進国に比べて低いレベルで評価されている。ビッグデータ分野において世界最高水準の技術国を有する米国に比べて、韓国のビッグデータ技術レベルは87.8%、技術格差は1.2年という調査結果が出ている。ビッグデータ分野の論文競争力において世界最高水準の国は欧州であり、国・地域別にはヨーロッパ、米国、中国、韓国、日本の順だった。特許競争力における世界最高水準は米国であり、国別には米国、ヨーロッパ、日本、韓国、中国の順だった。世界的にビッグデータ技術分野全体の特許動向は、1990年後半から特許出願が始まり、2000年代に入り、毎年100件余りの特許が出願されている。2012年からは、年間200件以上の特許出願が行われており、2014年には300件以上と最も多くの特許が出願された。韓国は、2014年に特許出願が急増して以降、その後は出願量が減少している。韓国は、2012年から登録特許が増え始め、2014年以降は米国よりも多くの特許が登録されている。これは、米国よりは遅れているが、韓国にはビッグデータ技術に対する高い関心があり、研究開発投資が積極的に行われていると判断される。特許の主要出願人を見れば、米国、韓国、日本などは大企業主導で行われている。韓国における主要出願人は、韓国電子通信研究院(ETRI)やサムスン電子などである。韓国のサムスン電子は、20件の特許を登録しているが、半分以上が米国に出願して登録された特許である。韓国の場合、ETRIがビッグデータ技術分野を牽引しており、韓国科学技術情報研究院(KIST)、KT、サムスン電子の順で多数の特許を出願している。韓国の場合、企業よりは研究所を中心に研究活動が行われていることが分かる。

韓国は、政府のデータ産業活性化戦略により、10大産業分野を中心に保有データの積極的な公開と保存・流通・分析のための基盤基本技術の開発を推進している。民間領域のデータ取引市場が形成されていない状況で、韓国政府は2019年から10大分野を選定し、オンラインでデータ取引が可能な「ビッグデータプラットフォーム」の開設と運営を支援している。ビッグデータ産業は、中小企業に適した産業であると同時に、ビジネスに活用しようとする需要が市場の成長を牽引する適した産業と認識し、ビッグデータ関連企業の技術開発のための中小企業戦略技術ロードマップを発表している。情報通信企画評価院では、ICT R&D技術ロードマップを通じて人工知能基盤知能型ビッグデータの管理および分析技術、プライバシー保護ビッグデータ技術、リアルタイムエッジデータ分析処理技術、社会問題解決型ビッグデータ応用技術に対するコア技術戦略を発表している。オープンソース基盤のビッグデータインフラを高性能コンピューティング技術とつなげたビッグデータ処理の高速化および、AI技術を活用できるビッグデータ基盤産業の特化活用のためのプラットフォーム技術の開発を推進している。また、ビッグデータの品質測定および管理モデルの構築のために、リアルタイムで生成された大容量データから自動的に不具合を検出・分類する技術を開発している。

ビッグデータのプラットフォーム・分析技術で製品販売

韓国は、ビッグデータ分析・処理分野においてテキスト、画像、音声など非定型データ基盤のビッグデータ融合分析と予測プラットフォームを開発している。韓国のビッグデータの予測および分析、異種ソースの分析などの技術は初期段階であり、技術開発の必要性が高まっている。非定型的データに関連した予測研究は開始段階であり、視覚化技術はデータマイニング作業に基づく情報伝達よりも、メッセージ伝達のための視覚表現方式を開発している。韓国の代表的な研究機関であるETRIでは、ウェブデータおよび大規模コーパスから半自動的に言語分析に必要な知識の抽出方法を開発し、技術文書自動翻訳システムを搭載している。様々なビッグデータプラットフォームおよび分析技術に関する製品が韓国企業から販売されている。ソルトルックス(Saltlux)は、自然言語処理(NLP)と機械学習、分散並列処理のような核心基盤技術を基にビッグデータの収集、変換、分析、視覚化を通じて意思決定を支援するビッグデータ分析プラットフォームを販売開始した。KT NexRは、ビッグデータの収集、処理、保存、分析などをすべて提供するHadoop基盤のプラットフォームを提供しており、データ処理、高度な分析、視覚化、データマーケットプレイス機能を備えたビッグデータ分析機能を開発している。データストリームズ(DataStreams)は、分散メモリ基盤のリアルタイムデータ統合プラットフォームを開発し、初期導入費用を最小化した高性能・高効率なビッグデータ統合処理運営アーキテクチャを提供している。自然言語処理、マシンラーニング、テキストマイニング技術に力を入れているワイズナット(WISEnut)は、大容量ビッグデータの収集、検索をはじめ、分析のためのマイニング、AI基盤のチャットボットなどAIソリューションを開発している。

既存領域を越えた技術融合

データの活用による高度な分析、未来予測能力が企業の競争力、国の競争力に直結している。ビッグデータは、大容量データの活用・分析により価値のある情報を抽出し、それを基に対応策の導出や変化を予測することができる。韓国におけるビッグデータは、製品およびサービスが結びついた新市場を創出し、既存分野の境界を越えて様々な技術の融合に活用されている(図4参照)

物流・流通分野では、ビッグデータを活用してオンライン消費トレンドを分析し、ソーシャルデータバズを分析してオンライン消費者のニーズを把握している。また、オンライン商品の価格情報の収集による価格戦略、または、商圏分析を通じた売上予測を基に立地戦略に貢献する。製造分野では、ビッグデータを活用したスマートファクトリーの設計・生産過程に自動化や情報システムなどを導入し、製品の品質やプロセスの効率性を高めるためにデータ分析を行い、その結果を活用するスマートファクトリーが導入されている。韓国の主要大企業では、グループ内のIT系列会社を通じてクラウドやビッグデータプラットフォームに焦点を置いて実施されている。中小企業では、主にSIプロジェクトの形態で中小企業向けのビジネスを営むか、企業ごとにメリットのある分野のニッチマーケットに力を入れている。製品不良が発生する環境を分析し、事前に措置をとって不良率を低め、欠陥の発生を最小化し、メンテナンス費用を節減している。

医療分野では、医療機関中心の治療から、予防および患者中心への変化に伴い、ビッグデータの分析・活用性の重要性が高まっている。医療分野では、ビッグデータ技術を導入し、非定型データの分析結果まで含めた医療技術、新薬開発、臨床実験、販売/マーケティングおよび全領域に適用が可能である。

金融分野では、マーケティング、商品開発、リスク管理、信用評価など金融全般にビッグデータを活用しており、統合ビッグデータプラットフォームの構築を通じたマーケティング能力の強化に取り組んでいる。また、異常金融取引の探知、金融詐欺、各種管制システムなどのセキュリティ問題に関して、顧客情報などのビッグデータとAI技術を活用したソリューションを開発している。

農畜産分野では、作物を栽培施設、施設内外の環境および制御情報、作物情報、農作物栽培の必要資源などの統合生産データを、ビッグデータプラットフォームを通じて管理している。このようなビッグデータは、農作物の状態把握、病虫害の管理、センサーや映像カメラなどを活用した作物成長のモニタリングおよび分析のためのAIシステムの開発が進められている。

図4. ビッグデータプラットフォーム活用分野(出処:官民協力基盤のデータプラットフォーム発展戦略、2021)

まとめると、韓国では第4次産業革命のコア技術であるビッグデータ技術を医療、金融、スマートファクトリー、スマートファーム、自動車など様々なドメインで積極的に活用している。また、ビッグデータのコア技術について、企業、研究所および大学で研究開発を行っているだけでなく、ビッグデータ人材養成のために政府レベルで様々な取り組みが行われおり、大きな発展が期待される。

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