「メタバース3.0」に向け、現実-仮想融合世界の開拓へ新たな挑戦 韓国

2022年06月01日

禹 雲擇(Woo Woontack)

禹 雲擇(Woo Woontack):
韓国科学技術院(KAIST) 文化技術大学院 院長・教授

<略歴>

米国南カリフォルニア大学にて博士号(電気・電子システム)を取得。日本国際電気通信基礎技術研究所、韓国光州科学技術院准教授、教授などを経て、2012年からKAIST文化技術大学院教授。2016年からKAIST KI-ITC AR研究センター所長、2020年からKAIST文化技術大学院長も務める。

最近、世界的にメタバースに対する関心が高く、韓国における反応はさらに熱狂的である。リンデン・ラボ(Linden Lab)が第1世代メタバースといえる<セカンドライフ>を2003年に発売して以来、約20年ぶりにメタバースが再び関心の中心に浮上した。ある者は「メタバースは、いまだない(Metaverse is Nowhere)」と言えば、またある者は「メタバースは、今ここにある(Metaverse is Now Here)」と言う。再び戻ってきた第2世代メタバースは生き残り、日常において<現実-仮想融合経済プラットフォーム>として持続的な活用が可能なのか?

最近、再び核心キーワードとして注目されているメタバースとは何か?メタバースに対する定義や解釈は、いまだ各自の経験や知識によってまちまちながら、関連技術の発展と時代環境に伴い進化している。メタバースは、キーボードやマウスで動く「カーソル(Cursor)」の代わりに「アバター(Avatar)」を通じて仮想世界のデジタル情報にアクセスして、活用し、また、共有する「3次元ソーシャルメディア」である。また、現実-仮想融合に基づいて経済活動を含む様々な日常の活動が可能な「拡張仮想世界」であり、仮想コンテンツを創造し、その流通を通じて仮想資産の所有と蓄積が可能な<経済プラットフォーム>である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大と共に再び登場したメタバース2.0は、<現実-仮想融合経済プラットフォーム>としての可能性のため、より一層注目されている。

対面活動が困難な新型コロナパンデミックの状況下で、10代がメタバースに集まり非対面の限界を克服できる「面白い遊び空間」を作った。ユーザー数の増加と共に新たな代替コミュニケーション空間として期待を集め始め、ユーザーが作ったゲームやアバターのための仮想アセットなどで収益を上げるケースが登場し、「経済的価値創出」が可能な仮想世界であり、新たな「3次元ソーシャルプラットフォーム」として注目され始めた。関心の始まりはゲームだったが、様々な日常での活用を模索しながらホットな流行語として再び登場し、国内外の関連企業も急速に対応している。しかし、いまだ拡張性にもはっきりとした限界があり、依然として解決しなければならない課題も多く残っている。10代に限らず、すべての世代が日常で共に活用できるメタバースは、おそらく第3世代メタバースにおいて可能なのかもしれない。

今後準備すべき第3世代メタバース(メタバース3.0)は、どのような姿だろうか?メタバース2.0は、スマートフォンの小さな画面を通じてアクセスし、経験する仮想世界である。スマートフォンの画面は、仮想世界における様々な経験を現実にいるユーザーに伝えるには根本的に限界がある。一方、眼鏡型ディスプレイを主に活用するメタバース3.0は、ユーザーに仮想世界の経験をさらに没入感高く提供するだけでなく、現実で必要なときに直ちにアクセスして現場で体験できる新しい形態の仮想世界である。眼鏡型ディスプレイを通じてユーザーの不十分な感覚を増強して補完するだけでなく増幅することもでき、現場で即時的な意思決定をサポートすることもできる。おそらく、眼鏡型は、その先の未来ではコンタクトレンズの形に進化するものと予想される。

メタバース3.0は、「自ら学習、進化する知能空間」でもある。したがって、現実のデータに基づいて現実の環境をモニタリング、シミュレーション、予測/検証するだけでなく、新たな実験の場を提供する。また、日常の現場でも、直ちに接近して活用できる新しい形態のメタバースであるため、映画で見た様々な経験を現実でも体験することができる。従来のメタバース1.0がインターネットとデスクトップパソコンを基盤に経験する<連結された仮想世界>だったとすれば、メタバース2.0は無線ネットワークとスマートフォンを基盤で経験する<拡張仮想世界>である。これに対しメタバース3.0は、超高速インターネットと眼鏡型プラットフォームを基盤に日常で経験する<拡張混合世界>であり、「現実-仮想融合経済プラットフォーム」である。

韓国は、メタバース3.0のためにどのように準備しているのか?メタバース3.0の実現のためには、「現実-仮想融合技術エコシステム」が必要である。単一技術ではなく、メタバースプラットフォームを中心に、コンテンツ、ネットワーク、デバイスなどの情報通信技術を有機的に連動させる融合技術エコシステムである。すなわち、誰でも、いつどこでも直ちに必要な情報の活用と体験ができるようにするには、モノのインターネット(IoT)、超高速インターネット、エッジ/クラウド、デジタルツイン、人工知能(AI)、メタバース、アバター、仮想資産、仮想拡張現実などの有機的連動が必要である。様々な仮想世界を構築し、関連サービスやコンテンツの創造に必要な著作ツールも必要である。著作の結果を所有したり流通したりして経済的価値を創出し維持するためには、信頼することができ、相互運用可能な経済システムも必要である。

そして、ユーザーの立場では、パーソナライズされた体験プラットフォームが必要である。仮想世界を現実の日常で活用するためには、社会的受容が可能な軽い眼鏡型デバイスが必要である。眼鏡越しに3次元の現実世界で空間やオブジェクトを媒介に必要なデジタル情報にアクセスし、直観的かつ自然に活用するためには、眼鏡型ディスプレイと共にパーソナライズされた知能型ユーザーインターフェースも必要である。このためには、筋電図や脳信号を活用して直観性を高めることができる。また、知能型インターフェースは、システムの決定を一方的にユーザーが受け入れるよう誘導するよりは、ユーザーの判断を補助する役割をしなければならない。

今年初め、韓国政府は、関係部署合同で<メタバース新産業先導戦略[*]>を発表した。<デジタル新大陸、メタバースに跳躍する韓国>をビジョンとして、2026年までにグローバルメタバース市場占有率5位、メタバース専門家4万人養成、売上高50億ウォン(約5億円)以上の専門企業220社育成、メタバース模範事例50件発掘を目標に、4大推進戦略と24件の重点推進課題を挙げた。同時に、民間主導の自律規制体系の拡散を奨励しながら、「メタバース倫理原則」を策定し、法・制度を整備している。新しく構成される「メタバース政府横断協議体」を通じて、メタバースにおける個人情報の保護・知的財産保護関連の議論も計画している。

メタバースの時代が再び到来している。いまだ経験したことのない世の中は、常に多くの問題と共に訪れる。特に、時間と空間の限界を超えて様々な文化的背景を持つ人々が一堂に会する世界では、これまで経験したことのない文化的衝突や葛藤も予想される。しかし、あらかじめ心配して技術の発展を自ら制限するよりは、様々な挑戦を積極的に試みることが必要な時である。私たちが生きている世の中は、試行錯誤を経験しながら発展してきた。新たな挑戦を通じて、新たな現実-仮想融合世界を開拓する基盤を固める一年になることを願ってやまない。

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