韓国-半導体で勝負、10年間で15万人の半導体人材育成を宣言

2022年10月13日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田 侑奈

先日、尹政権の国政課題と科学技術情報通信部の課題で紹介した通り、韓国は「他国と格差を作る技術力」、「選択と集中」、「民官協力」をキーワードに科学技術政策を打ち出している。

他国との技術格差を広げる第一歩として尹政権が取り出したのは「半導体」というカード。

尹氏は、6月の国務会議で「半導体は、我が国の安全保障に関わる資産かつ核心産業であり、全体輸出額の20%を占める核心分野である」と半導体の重要性を強調した。一方、韓国半導体産業協会によると、2021年の半導体産業の人材は17.7万人で10年後に必要な人材規模は30.4万人にまで増加する見込みである。すなわち、2030年まで最低でも12.7万人の半導体人材を確保する必要があるが、半導体人材の供給が需要に及ばないのが現状であり、産業通商資源部によると、2020年だけで1621人が不足するという統計結果となった。

1. 政府の動き

そこで、教育部は、7月19日、半導体人材育成戦略として「半導体関連人材育成方案」を公開し、2030年まで15万人の半導体人材を育成すると宣言した。

その戦略としては、①大学・大学院における半導体学科定員の拡大、②大規模の半導体R&Dプロジェクトを通じた産学官連携の強化、③大学を中心とする半導体人材育成拠点の構築との3つである。

① 大学・大学院における半導体学科定員の拡大

地域問わず、教員の数が確保できるのであれば、他の規制条件なしで、大学で半導体学科を新設・増設し、定員を一時的に(5年間)増加するように促した。教員の数が足りない場合は、兼任・招聘教員も活用し、現場の専門家も戦力として積極的に取り入れることで、教員不足の問題を解決するように示唆した。

また、半導体分野で優秀な研究成果を挙げている大学や大学院を「半導体特化大学」と指定し、政府が破格的な財政支援を行うと約束した。

② 大規模の半導体R&Dプロジェクトを通じた産学官連携の強化

政府は、次世代知能型半導体開発プロジェクト(20~29年、1兆96億ウォン)、PIM半導体開発プロジェクト(22~28年、4,027億ウォン)のような、産学官連携の半導体関連R&Dプロジェクトを大幅に増やし、ハイレベル人材の育成に力を入れるとした。半導体学科以外の学生も半導体融合人材として成長できるよう、「短期集中教育カリキュラム(半導体ブートキャンプ)」の新設を推進すると明らかにした。これは、大学と企業が共にカリキュラムを開発し、半導体の設計、素子、素材、工程などに分け受講させることで、マイクロディグリーを付与するものである。また、現場の即戦力として働ける実務人材を育成するため、専門大学や職業高校(産業ニーズにあわせた高等学校)では「勉強仕事並行カリキュラム」を拡充するとした。

③ 大学を中心とする半導体人材育成拠点の構築

半導体に関する基礎研究を推進するため、「ソウル大学半導体共同研究所」を中心に、各地方に研究の拠点を置き、地方の強みや特色を生かしつつ、各研究拠点の間の協力体制を構築するとした。これによって、半導体における地域の格差が縮まり、地方大学と中小企業のポテンシャルを十分に引き出せることが期待されている。

2. 大学の動き

政府の「半導体関連人材育成方案」に合わせ、各大学でも半導体人材育成に動き出した。

KAIST、光州科学技術院、蔚山科学技術院、大邱慶北科学技術院では、来年から半導体契約学科(契約学科:大学と企業が契約を結び、大学が企業の支援を受けながら企業が必要とする人材を育成する学位プログラム)を新設して、毎年200人以上の学士を育成するとした。また、年間220人程度であった半導体関連学科の院生を500人以上に拡充するとした。なお、半導体契約学科の定員が150人程度であった、成均館大学、延世大学、高麗大学では来年から定員を倍以上である360人に増やすとし、KAIST、POSTECH、漢陽大学、西江大学でも年間360人程度の半導体人材を育成すると宣言した。科学技術情報通信部は、AI半導体融合人材育成事業を担当する「半導体特化大学」として、ソウル大学、成均館大学、崇実大学を指定し、年間14億ウォン程度の支援を行うとした。この3つの大学では、電子・情報工学部、コンピュータ工学部、半導体システム工学部、機械工学部などの学生が参加可能な「AI半導体連合専攻」を新設し、当該専攻のカリキュラムを履修した場合、別途学士学位が授与するとした。

3. 企業の動き

半導体の重要性と人材不足が増していく中、大学のみならず、韓国の半導体企業でも、人材確保に全力を注いでいる。

サムソン電子は、KAIST、POSTECH、延世大学、成均館大学と半導体契約学科の新設契約を結び、これらの大学の半導体学科の学生の学費や奨学金を支援することを条件に、卒業後は、サムソン電子に入社して勤務するよう契約を締結している。すなわち、半導体人材独占契約を締結しているのである。同じく半導体大手であるSKハイニックスも高麗大学、西江大学、漢陽大学と半導体契約学科契約を締結し始めた。

また、人材の流失を防ぐため、サムソン電子は昨年、社員の給料を平均7.5%あげ、SKハイニックスは給料を平均8%引き上げた。そして、半導体人材を誘致するため、初任給の引き上げでも競争が激しくなっているが、SKハイニックスは新入社員の初任給を5040万ウォンに設定し、サムソン電子の4800万ウォンを上回る企業として話題になった。ファウンドリー専門会社(半導体委託生産)DBハイテクも、初任給をサムソン電子と同じく制定し、人材確保に取り掛かっている。

4. 産学官連携

政府、企業、大学がそれぞれの方法で、半導体人材確保に取り組んでいる中、9月6日、半導体人材育成に向け、教育部のリード下で、政府、企業、研究機関など計15の機関が「半導体人材育成支援協業センターの協業協約」を締結した。ここに参加している省庁には、科学技術情報通信部、教育部、産業通商資源部があり、研究機関としては、国家ナノインフラ協議体(センター)、大韓電子工学会、半導体工学会、韓国産業技術振興院などが含まれ、企業としては、サムソン電子、SKハイニックス、アルファソリューションズなどがあげられる。半導体産業の振興に向け、教育現場、企業、研究機関が速やかに情報共有を行い、研究開発における課題や問題点を共に解決していくことが期待されている。

従来の傾向から見ると、サムソン電子は約5千人、SKハイニックスは約千人規模の半導体人材を新たに採用すると予測されるが、韓国国内の状況に鑑みると、厳しい局面が想定される。半導体人材不足は、韓国のみならず、中国や米国も抱えている課題であり(中国半導体産業協会CSIAによると、米国は今後10年間で半導体人材が2万7千人不足しており、中国が来年まで必要とする半導体人材は20万人も足りていない)、海外からの人材誘致も容易ではない。「契約学科」という切り札まで持ち出した韓国であるが、半導体での勝負は成功するか。今後の動きに注目したい。

上へ戻る