カカオトーク通信障害から見るプラットフォーム企業の明暗、韓国政府の対応は?

2022年11月04日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈

81.6%、これは韓国のカカオトークアプリ利用率である。スマホ使用者の10人に8人が使用しているといわれるカカオトークは韓国の「国民SNS」である。創業僅か12年、カカオグループの系列会社は158社にまで増加し、タクシー、ゲーム、宅配、証券、コード決済などあらゆる領域にカカオグループが関わっている。

このようなカカオグループのサービスが10月15~16日、18時間にわたり中断され、韓国社会は大パニックに落ちた。理由はデータセンターで起きた火災であった。カカオグループのブラックアウトで国民の生活に大きな不便が生じ、科学技術情報通信部(MSIT)の長官が16日に謝罪会見まで行った。10月24日基準、通信障害による被害の申し出件数は4万5千件、被害額は約400億ウォンと推定。

主要サービスに対し、複数のデータセンターでサーバーを分散させる作業を着実に進めていたなら、サービスが長時間停止する事態は防げたはず。これはカカオグループでデータのバックアップを適切に行っておらず、データ管理に不備があったことが明らかになる瞬間であった1

カカオグループの無分別なプラットフォーム拡張は、中小企業や自営業者に大きな被害を及ぼしたとの指摘もあったが、韓国政府は、プラットフォーム企業の育成が科学技術のグローバル競争で絶対的に必要と判断し、規制を行うことに躊躇してきた。一部では、多くの行政サービスがカカオに頼っており、政府としてはコストの削減と利便性が得られる関係で放置してきたとの指摘も存在する。

2021年基準で、カカオグループの時価総額は116兆ウォンと、サムソン電子、SK、LG、現代自動車に次ぐ5位にランクインされた。しかも3、4位とは僅か10%の格差で、カカオモビリティやカカオエンターテインメントが上場すれば、3位も十分可能であると予測された。僅か10年強という期間でここまで成長できたのは、プラットフォーム企業に対する高い社会ニーズとトレンドをタイムリーにキャッチし、カカオトークというプラットフォームとネットワークのシナジー効果を十二分に発揮した結果といえる。カカオグループは韓国の社会経済に大きく貢献しただけでなく、プラットフォーム企業というブームを引き起こした張本人でもある。

カカオのようなプラットフォーム企業は、現行の放送通信発展基本法の規制を受けず、そこで2018年にMSITは、プラットフォーム企業に対しデータ保護義務を課す法律の改正を推進したが、企業財産権の侵害や産業発展の妨げになるという理由で成立に至らなかった。ただ、単なるプラットフォームという位置づけを超え、カカオグループは国民の生活のあらゆる分野に影響を及ぼす国民企業となっており、適切な制度保障が不可欠であると思われる。

尹大統領は、10月17日に「独占企業により国民の利益に影響が出ており、プラットフォーム独占については今まで業界の自律に頼ってきたが、今後は政府として必要な行動をとっていく」と初めてプラットフォーム企業への規制を語った。

10月21日、MSITは「デジタル危機管理本部」を新設し、第2のカカオ事態を防ぐべく、定期検査の実施・管理体系の構築をしていくとした。デジタルインフラとサービスの事故防止―訓練―対応―復旧に至るまでの全プロセスに対し、体系的に管理ができる仕組みを考案すると明かした。

MSITは、カカオデータセンターの復旧に向け、基本電力を100%供給しており、ほとんどのサービスが復旧したが、完全復旧まではおよそ3週間がかかる見込みだと述べ、今後このような事態が起こらないよう、データ事故とサービス障害防止に関する制度を新たに構築していくとともに、定期的な協同訓練で、タイムリーな対応ができるよう体制を組んでいくとした。

中長期的には、デジタルサービスの安全性を向上できる技術を開発し、火災に強い全固体電池と通信障害時でも利用ができる衛星ネットワーク技術の開発にも取り組むとした。

MSITは、韓国は、デジタル化が進んでいる国として、デジタルサービスに問題が生じた場合、社会と経済が麻痺するほどの打撃を受けると認め、カカオ事態に対する真剣な対応を約束しつつ、今回の事態で中小企業や新規のプラットフォーム企業に悪影響が出ないように、規制に慎重を期するとした。

プラットフォーム企業は、世界経済を牽引する重要な存在として、各国で重宝されている。2021年1月~2022年1月基準で、韓国において、時価総額の増加TOP3企業は、カカオグループ、NAVER、HYBEであるが、これらはいずれもプラットフォーム企業である。コロナの影響により、アンタクト時代が本格的に始動しており、プラットフォーム企業への需要は更に増すと思われるが、独占問題や特定企業への過剰な依存は、プラットフォーム企業の健全な成長の妨げになるものであり、一時的な経済損失を抱えたとしても、適切な規制や制度で向き合っていくタイミングが到来したと考えられる。

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