2022年11月28日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈
韓国科学技術情報通信部(MSIT)は、11月7日「2022年度 優秀国家研究会開発成果100選(以下優秀100選)」を公開した。優秀100選は科学技術に対する国民の理解を高め、科学技術に従事する研究者のモチベーション向上のため用いられている制度で、今年で17年目を迎える。今年政府の支援で実施された7万5000件のR&Dプロジェクトのうち、各省庁が選定した852件が候補となり、国民によるオンライン投票と産学研専門家100人の評価を統合し、TOP100が選ばれた。この100件は、基礎9件、融合技術10件、情報・電子21件、エネルギー・環境17件、海洋・生命24件、機械・素材19件で構成されている。
今回は、100件のうち、もっとも多くの投票数を獲得した、社会問題の解決に役に立つたった科学技術成果10件と、総合評価を通じ選ばれた分野別のもっとも優秀な研究成果12件を紹介する。
順位 | 分野 | 成果内容 | 研究機関 |
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1 | 神経疾患 | 下半身麻痺の障害者のために開発した電動型外骨格ロボットM20 1と国内医療機関への普及。 | 株式会社 エンジェルロボティクス |
2 | 消防安全 | ゴールデンタイムを守ってくれる119通報人工知能受付システムの開発。研究チームは119通報ビックデータに人工知能技術を適用し、被害が発生した場合、迅速・正確に対応できる支援システムを開発した。すなわち、電話を受け取った人が正確に音声を認識できるようにサポートし、状況別にどのような質問をすべきで、如何なる対応をすべきかを導てくれる機能をもっている。 | 電子通信研究院 |
3 | エネルギー | ボールミル法を通じ、機械化学的アンモニア合成に成功。 | 蔚山科学技術院 |
4 | 交通混雑 | 5Gを基盤に列車中心の鉄道信号技術を開発。 | 鉄道技術研究院 |
5 | 慢性疾患 | 肥満代謝手術後、小腸を通じ血液内のブドウ糖を体外に排出するメカニズムを明らかにし、糖尿病の治療に貢献 2。 | 延世大学 |
6 | 難治疾患 | 抗生剤で治療が不可能な腸内細菌クロストリジウム-ディフィシルをその場で検出できる検査キットを開発 3。 | 基礎科学支援研究院 |
7 | 難治疾患 | 先天性網膜治療に役に立つ、高純度の塩基矯正器リボ核酸タンパク質合成技術を開発 4。 | ソウル大学 |
8 | 食品安全 | 低温ストレスによって生成される活性酸素濃度変化を感知できる、センサータンパク質による植物冷害抵抗メカニズムを明らかにした。 | キョンサン国立大学 |
9 | 慢性疾患 | 腸内微生物の摂取を通じ、現代人の食習慣の乱れによる慢性疾患を改善できるメカニズムを明らかにした 5。 | KAIST |
10 | 電力供給 | 組成を傾斜化させたペロブスカイトの大面積サブモジュール工程技術を開発。 | 高麗大学 |
続いて、総合評価を通じ選ばれた分野別のもっとも優秀な研究成果12件を紹介する。ここには、国民が実感した社会問題の解決に役に立つ科学技術成果TOP10にも選ばれ、W優秀の快挙をあげた成果も一部含まれる。
分野 | 成果内容 | 研究機関 |
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機械・素材 | 未来モビリティバッテリーと電子デバイス部品の金属・グラフェン複合電極を開発 | 韓国電気研究院 |
機械・素材 | 風で広がるシードの構造からヒントを得て開発した3次元マイクロ飛行体 | 大邱慶北科学技術院 |
生命・海洋 | センサータンパク質による植物冷害抵抗メカニズムを明らかに、それを用いて耐寒性作物品種を開発(W) | キョンサン国立大学 |
生命・海洋 | マイクロバイオーム代謝物を解明し、人体免疫システムの調整を可能にした | ソウル大学 |
エネルギー・環境 | ボールミル法を通じ、機械化学的アンモニア合成に成功(W) | 蔚山科学技術院 |
エネルギー・環境 | 低温工程を基盤にする高効率ペロブスカイト太陽電池素材と技術を開発 | 韓国科学研究院 |
情報・電子 | 世界最高レベルの衛生通信体系を開発 | 国防科学研究所 |
情報・電子 | ビックデータグラフ分析に基づく核心問題に対し、世界最高性能のアルゴリズムを開発 | ソウル大学 |
融合 | 5G技術を基盤にする列車中心の鉄道信号技術を開発(W) | 韓国鉄道技術研究院 |
融合 | 細胞の標識伝達が可能な高効率RNA薬物伝達物質を開発 | 梨花女子大学 |
基礎 | 先天性網膜治療に役に立つ、高純度の塩基矯正器リボ核酸タンパク質合成技術を開発(W) | ソウル大学 |
基礎 | プラズマジェットを利用し、流体安定化に貢献 | KAIST |
以上、総じてみると、国民は、健康に関わる科学技術成果にもっとも多くの関心を示した。10件のうち5件が疾患の治療に関わるものである。次にエネルギー、食品安全、日常生活の安全や利便性向上などに関わる科学技術成果がランクインした。以前「イノベート・コリア2045 8(20年10月)」では、①安全かつ健康な、②便利かつ豊かな、③信頼性のある公正な、④人類社会に貢献できる科学技術を国民は望んでいると述べていたが、今回の優秀100選から再度その望みが強く感じられた。
MSITの科学技術イノベーション本部長は優秀100選について「科学技術が社会の諸問題を解決し、未来を切り開く中心に立てるよう、引き続き研究開発における予算を拡大し、国民の多くが実感できる成果物の創出と宣言に注力していく予定」とコメントした。来年度の科学技術予算は今年度よりも2.3%増加した18兆8000ウォン、果たして韓国はそれに準ずる研究成果を生み出せるのか、今後の科学技術動向を引き続き注視していきたい。