韓国における近年のウイルス研究開発の動向

2022年12月01日

ブ・ハリョン(Haryoung Poo, PhD)

ブ・ハリョン(Haryoung Poo, PhD):
韓国生命工学研究院 感染症研究センター 責任研究員

<略歴>

米ウェイン州立大学で博士号取得。ミシガン大学で博士後研究員を経て1988年から、韓国生命工学研究院(KRIBB)の研究員として勤務している。細胞免疫、ワクチン、ワクチンアジュバントおよび診断技術研究を通じて100編以上の論文を発表し、20件以上の国内外特許登録と3件の技術移転を行った。韓国の科学技術大学(UST)の兼任教授、韓国科学技術アカデミー(KAST)韓国科学技術翰林院の正会員。韓国女性科学者協会(KWSE)会長を歴任。現在、女性技術者と科学者の国際ネットワーク(INWES)の理事として活動している。

2019年12月に最初の発生事例が報告された後、全世界に拡散した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめ、それ以前では1918年のスペインかぜ、1968年の香港インフルエンザ、2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)など、人類は繰り返しウイルス感染症にさらされてきている。これに対し、感染症克服のための科学的な対応策を研究開発すべく努力している。最近の韓国におけるCOVID-19の状況は、2400万人以上の感染者が発生し、2700人余りの死亡者が報告され、死亡率は約0.1%を示し、全世界平均(約1%)より低い死亡率となっている。

20世紀初頭から中頃まではウイルス感染により多くの人が死亡したが、20世紀後半になってワクチンおよび治療薬を含む医学技術が発達し、ウイルス感染症による死亡者数は減少傾向にある。しかし、いまだに気候変動や交通の発達などによって、新種・変種ウイルス感染症が出現し、特に大流行になれば対応できるワクチンと治療薬の開発に時間がかかるため、極度の不安や社会的な混乱と共に莫大な経済被害が繰り返されている。統計庁の調査によると、新型の感染症に対して「安全ではない」と考える国民は、2018年の42.8%から2020年には52.9%に増加し、国民は新型感染症の危険に対し多くの不安を感じていることが分かる。いまだにウイルスに対する賢明な対応が困難な理由は、どんなウイルスが流行するか予測できないため、あらかじめ完璧に備えることが難しく、新たに出現する新型ウイルスに対しては診断、ワクチン、治療薬の開発などに多くの時間を要するからである。

気候変動や人間の活動範囲が広がることにより新型ウイルスが出現し、交通発達により国家間の交流が増大し、以前よりウイルスは速い速度で広がっている。また、最近のウイルス感染症の特徴は、慢性基礎疾患者および高齢人口など、免疫が低下した人の死亡率が比較的高いことである。そのため、個人の免疫状態を考慮したワクチンや治療薬の開発が欠かせない。

韓国の国家科学技術諮問委員会の資料によると、感染症R&D投資が2009年の新型インフルエンザパンデミック以後、2021年まで5倍以上増加し、新型ウイルス感染症に対応するために感染症R&Dに対する予算投入が着実に増加している。過去5年間(2017~2021年)の感染症研究開発投資の状況を分析すると、治療分野への投資が最も大きく、研究段階としては事業化分野、疾患は新種・変種感染症研究に集中している。研究分野および研究段階別に分析を行うと、基盤研究よりは源泉研究および事業化研究に投資が集中している。特に、ウイルス機序と監視および予測、診断、治療、予防などの分野の研究開発のために省庁間における実質的な協力が求められており、長期的なウイルス研究関連の基礎研究とワクチンおよび治療薬の研究人材インフラの確保や研究力量が先進国に比べて不十分であると判断されている。したがって、感染症に対応するために産学研(industry, academia, research institute)の研究協力をさらに活発にし、国内外の専門家を含むネットワークを構築して、これを通じて常に情報交換を行う必要がある。すなわち、海外から流入する感染症を予測し、国家間の疾病伝播経路および国内都市間の疾病伝播経路の予測、パンデミック関連ウイルス変異株の発生および伝播経路把握が必要であり、そのためには国家間、多くの専門家間の協力が求められる。

究極的に新種・変種ウイルスが出現する理由は、ウイルスの特性上遺伝的変異が高いという点が挙げられる。特にRNAウイルスは突然変異(mutation)がよく起こり、現在流行しているCOVID-19もRNAウイルスで、元々はコウモリに感染するウイルスであったが、突然変異により中間媒介体を通じて人に感染したと推測される。このような変異自体は予測が不可能なため、今後発生しうる新種・変種ウイルスを予測して最適なワクチンおよび治療薬をあらかじめ開発することは非常に困難であるため、国際的なネットワークを通じた情報共有は非常に重要だと判断される。したがって、現在、日本、オーストラリア、シンガポールなどの国々はGLOPID-R(Global Research Collaboration for Infectious Disease Preparedness)に参加しており、国際ネットワークの確保及び共同研究を支援している。

国内感染症対応ワクチンおよび治療薬の研究開発を活性化し支援するため、国家・前臨床試験支援センターを建て動物を使った前臨床研究支援を拡充し、持続的に活用·支援するための感染症インフラ活用を活性化する方針である。また、先進国に比べて不十分な基盤研究を活性化するため、2021年に韓国ウイルス基礎研究所を基礎科学院(Institute of Basic Science)に新設した。韓国ウイルス基礎研究所は、ウイルス基礎源泉研究を遂行し国家研究力および研究人材の確保、ウイルス分野の基礎研究者の底辺拡大および次世代研究リーダーの育成、国家ウイルス基礎研究拠点として、研究と研究インフラのネットワークをつなげる役割の遂行、国家研究の競争力向上のために設立された。この研究所は、3つほどの研究団で構成されており、国家の拠点ウイルス基礎研究所として研究団を中心に基礎研究を遂行するとともに、研究・研究インフラネットワークを構築して感染症の基礎研究協力を強化し、基礎研究事業を通じて全般的なウイルス基礎研究力量の向上を支援する。

そのほか、感染症研究事業では国策事業を中心に行っており、現在、未来感染症技術開発事業(22年、331億ウォン=約33億円)、新変種感染症対応プラットフォーム核心技術開発事業(22年、113億ウォン)、次世代ワクチン基礎源泉核心技術開発事業(22年、100億ウォン)などがある。目標としている感染症核心技術開発方向は基盤技術として、遺伝体の特性および病原性の研究、ウイルス増殖および免疫メカニズムの研究、変異ウイルス予測などがあり、予防研究分野としては、メッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質、ウイルスベクターワクチン、ワクチンアジュバント、抗原デザイン、有効性評価などがあり、治療分野には作用機序ターゲットタンパク質および遺伝子治療薬、有効物質スクリーニング、治療薬活性検証があり、診断分野には迅速現場型診断および次世代診断技術などがある。そのほか、インフラとしては、オーガノイド感染モデルなどがある。いまだ収まらないCOVID-19パンデミックは、科学者たちに感染症研究に対する多くの教訓を与えている。未来に迫る感染症パンデミックにより迅速に対応するために、感染症研究開発に対する投資を通じた科学的な準備が切実に求められている。

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