2022年12月09日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈
11月7日、科学技術情報通信部(MSIT)・航空宇宙研究院・韓国電子通信研究院は、韓国初の月探査機「タヌリ」が宇宙から、映像・写真・文字などのデータを地球に送信することに成功したと発表した。特に、世界的な人気アイドルグループBTSのミュージックビデオ、「待って、お月さま」という文字が地球に送信され、韓国では大きな話題となった。
宇宙事業への国民の関心が日々高まるなか、11月28日、尹政権は「未来宇宙経済ロードマップ」を公開した。尹大統領は「宇宙産業で強みを見せる国が世界経済を主導すると思われる。宇宙技術は人類が直面している様々な課題を解決できる鍵であり、宇宙強国という目標は決して遠い未来の話ではない」と述べ、5年以内に月に飛べる独自の発射体エンジンを開発し、2032年には月に着陸して資源の採掘を始め、2045年には火星に着陸するとした。
この目標の実現に向け、政府は2027年まで宇宙分野に1兆5000億ウォンを投資し、2030年から無人宇宙輸送に着手して2050年には有人輸送を成功させる予定である。そのため、まずは、プロジェクトの中心となる宇宙航空庁を新設し、専門家とともに調査研究を推進していくとした。MSITは、これから宇宙航空庁の設立に万全を期するとコメントした。
なお、2005年からMSIT傘下に国家宇宙委員会が置かれ、宇宙開発に関する事項を審議・調整しているが、今までは国務総理が委員長を務めてきた。宇宙産業の重要性が高まったことに伴い、尹大統領は、11月28日より、大統領が委員長の職につくと宣言した。
「未来宇宙経済ロードマップ」には、①月・火星探査、②宇宙技術の発展、③宇宙産業の育成、④宇宙分野の人材育成、⑤宇宙安全保障、⑥国際協力という6大分野に関わる政策支援方向が書かれており、この内容を基に、第4次宇宙開発振興基本計画が策定される見込みである。宇宙開発には、KT SAT、LIGネックスワン、ハンファエアロスペースなど宇宙開発を代表する70社の企業が力を加わる予定である。
Euroconsultの調査によれば、世界の宇宙産業の規模は、2021年時点で3700億ドルであり、2030年には6420億ドルまで成長する見込みである。世界中で宇宙産業がホットな話題になっているなか、韓国も国内の宇宙産業に従事する企業の世界市場売上割合を2040年までに10%に引き上げるとした 1。
宇宙強国という目標は、新政権の科学技術における7大国政課題の中でも含まれており、発射体、衛星、宇宙探査、衛星航法すべてが優れている世界7大宇宙強国になる目標が提示されていたが、今回のロードマップの策定は、その実現に向けての第一歩と思われる。大統領が自らハンドルを握るという新たな局面を迎えた韓国の宇宙産業。果たしてヌリ号・タヌリの発射を継ぐ、目覚ましい成果の創出は実現されるのか。今後の動きを引き続き注視していきたい。