2022年12月21日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈
下記のグラフは、韓国における留学生数を示している。韓国では、コロナの影響により、非学位課程の留学生が一時減少したが、2022年よりまた増加傾向を見せている。学位課程の留学生は、コロナ禍でも増え続けている。総じて、官民協力を通じて実施してきた様々な施策のおかげで、留学生の数はコロナ禍でも大きな変動がなかった。
出典:韓国教育基本統計2022
注:学位課程には、学士号取得のため短期大学や4年制大学に在籍する人、修士号や博士号を取得するため大学院に在籍している人が含まれる。 非学位課程には、学位取得を目的としない語学研修生、交換留学生、訪問研修生などが含まれる。
韓国教育基本統計2022 1によれば、
● 2022年の場合留学生総数は166,892人で、前年度に比べ14,611人(9.6%↑)増加 した。留学生は、高等教育機関在籍者(3,117,540人)の4%を占めている。コロナの影響があると思われる2018年以降も15~16万人規模を保っている。
● 学位取得を目的としている留学生の数は、124,803人(74.8%)で、前年度に比べ4,785人(4%↑)増え、非学位課程で在籍している留学生の方は42,089人(25.2%)で、前年比9,826人(30.5%↑)増加した。
● 非学位課程の留学生は、コロナ直後減少気味であったが、2022年からまた増加し始めている。注目すべきところは、学位課程に在籍する留学生の場合、コロナ禍でも増え続けて いたこと。
図 コロナ前後の出身国別留学生の割合変化
出典:韓国教育基本統計2022
注:その他には、中国、ベトナム、ウズベキスタン、モンゴル、日本を除くすべての国・地域が含まれている。
年度 | 合計 | 中国 | ベトナム | ウズベキスタン | モンゴル | 日本 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 83,842 | 59,490 | 1,919 | 427 | 3,335 | 4,090 | 14,581 |
2011 | 89,537 | 60,935 | 2,332 | 521 | 3,700 | 4,645 | 17,040 |
2012 | 86,878 | 57,399 | 2,458 | 546 | 3,799 | 4,172 | 18,504 |
2013 | 85,923 | 52,317 | 3,013 | 628 | 3,904 | 4,503 | 21,558 |
2014 | 84,891 | 50,336 | 3,181 | 754 | 3,126 | 3,958 | 23,536 |
2015 | 91,332 | 54,214 | 4,451 | 1,066 | 3,138 | 3,492 | 24,971 |
2016 | 104,262 | 60,136 | 7,459 | 1,588 | 4,456 | 3,676 | 26,947 |
2017 | 123,858 | 68,184 | 14,614 | 2,716 | 5,384 | 3,828 | 29,132 |
2018 | 142,205 | 68,537 | 27,061 | 5,496 | 6,768 | 3,977 | 30,366 |
2019 | 160,165 | 71,067 | 37,426 | 7,492 | 7,381 | 4,392 | 32,407 |
2020 | 153,695 | 67,030 | 38,337 | 9,104 | 6,842 | 3,174 | 29,208 |
2021 | 152,281 | 67,348 | 35,843 | 8,242 | 6,028 | 3,818 | 31,002 |
2022 | 166,892 | 67,439 | 37,940 | 8,608 | 7,348 | 5,733 | 39,824 |
年度 | 合計 | 中国 | ベトナム | ウズベキスタン | モンゴル | 日本 | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 60,000 | 45,944 | 1,667 | 343 | 2,196 | 1,350 | 8,500 |
2011 | 63,653 | 47,725 | 1,940 | 387 | 2,515 | 1,430 | 9,656 |
2012 | 60,589 | 43,961 | 1,889 | 384 | 2,631 | 1,347 | 10,387 |
2013 | 56,715 | 38,394 | 2,153 | 419 | 2,490 | 1,367 | 11,892 |
2014 | 53,636 | 34,482 | 2,148 | 481 | 2,236 | 1,416 | 12,873 |
2015 | 55,739 | 34,887 | 2,579 | 707 | 2,145 | 1,461 | 13,960 |
2016 | 63,104 | 38,958 | 3,466 | 1,083 | 2,279 | 1,568 | 15,750 |
2017 | 72,032 | 44,606 | 4,698 | 1,721 | 2,723 | 1,601 | 16,683 |
2018 | 86,036 | 51,790 | 7,801 | 3,147 | 3,457 | 1,697 | 18,144 |
2019 | 100,215 | 56,107 | 13,221 | 5,230 | 4,569 | 1,812 | 19,276 |
2020 | 113,003 | 59,177 | 19,160 | 7,441 | 5,230 | 1,932 | 20,063 |
2021 | 120,018 | 59,774 | 24,984 | 7,658 | 4,916 | 2,022 | 20,664 |
2022 | 124,803 | 60,521 | 26,915 | 8,249 | 4,800 | 2,430 | 21,888 |
年度 | 合計 | ベトナム | 中国 | 日本 | モンゴル | フランス | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 23,842 | 252 | 13,546 | 2,740 | 1,139 | 360 | 5,805 |
2011 | 25,884 | 392 | 13,210 | 3,215 | 1,185 | 499 | 7,383 |
2012 | 26,289 | 569 | 13,448 | 2,825 | 1,168 | 586 | 7,693 |
2013 | 29,208 | 860 | 13,923 | 3,136 | 1,414 | 758 | 9,121 |
2014 | 31,255 | 1,033 | 15,854 | 2,542 | 890 | 814 | 10,122 |
2015 | 35,593 | 1,872 | 19,327 | 2,031 | 993 | 977 | 10,393 |
2016 | 41,158 | 3,993 | 21,178 | 2,108 | 2,177 | 987 | 10,715 |
2017 | 51,826 | 9,916 | 23,578 | 2,227 | 2,661 | 1,233 | 12,211 |
2018 | 56,169 | 19,260 | 16,747 | 2,280 | 3,311 | 1,146 | 13,425 |
2019 | 59,950 | 24,205 | 14,960 | 2,580 | 2,812 | 1,283 | 14,110 |
2020 | 40,692 | 19,177 | 7,853 | 1,242 | 1,612 | 1,119 | 9,689 |
2021 | 32,263 | 10,859 | 7,574 | 1,796 | 1,112 | 1,631 | 9,291 |
2022 | 42,089 | 11,025 | 6,918 | 3,303 | 2,548 | 2,247 | 16,048 |
出典:韓国教育基本統計2022
注:出身国別の留学生の数には、在外韓国人は含まれていない。その他には、中国、ベトナム、ウズベキスタン、モンゴル、日本の除くすべての国・地域が含まれています。国の並べ順は、2022年基準の留学生数順となる。
留学生のうち、中国人留学生の数がもっとも多く、67,439人と全体留学生の40.4%を占めている。前年度に比べると0.1%(91人)の増加がみられる。中国の次は、ベトナムが37,940人で22.7%、ウズベキスタンが8,608人で5.2%、モンゴルが7,348人で4.4%、日本が5,733人で3.4%を占めており、アジア(韓国と北朝鮮を除くアジア諸国・地域の留学生を指す)からの留学生数が全体の88.3%を占める結果となっている。
● 依然として、中国からの留学生の数が一番多いが、2010年の全体の71%を占める時と比べれば、その割合は大幅に減少している。2018年に初めて割合が50%を下回り(48.2%)、2022年には40.4%まで下がった。特に、コロナを機に非学位課程の留学生が大幅に減少し、2020年には前年度の半分程度の人数に止まった。
● 学位課程、非学位課程問わず、ベトナム留学生の増加が目立つ。2010年には全体留学生の僅か2.3%であったベトナム留学生は、2022年には22.7%まで増加した。学位課程の場合、2018年から大きく増加しはじめ、2019年には1万人を突破し、2021年には2万人を超えた。非学位課程の場合、2018年より中国を超え1位となり、1万人以上を保っている。
● ベトナムに続き、留学生の増加が著しい国は、ウズベキスタンである。2010年には、留学生数が僅か427人で全体の0.5%を占めていたが、2015年から1%を超えはじめ、2017年には2.2%、2018年には3.9%、2022年は5.2%と増加傾向を見せている。ウズベキスタンからの留学生の特徴としては、ほとんどの学生(8,608人のうち8,249人)が学位取得の目的で来韓していることである。
● モンゴルからの留学生の数2010~2015年まで3千人程度で前後していたが、2016年より4千人を超え、2022年には7千人を超えた。日本から来韓している留学生数も増加傾向にはあるが、変動幅が大きいとは言えない。
● 非学位課程の留学生のうち、増加が目立っているのはフランスからの留学生である。フランスから非学位課程留学生は、2010年段階では僅か360人だったが、2017年に千人を超え、2022年には2,247人まで増加し、全体の非学位課程留学生の5.3%を占めている。
その秘訣としては、以下の何点が考えられる。
韓国政府は、2011年度より教育国際化力量認証(IEQAS: International Education Quality Assurance System)制度を導入したが、これは、国際化の能力が優れた大学を「認証」することで、高等教育機関の質の管理と優秀な外国人留学生の誘致拡大につなげることを目的としている。認証された大学は、韓国教育部が運営するウェブサイト「Study in Korea」への掲載や政府奨学金の優遇等を受けられる。また、不法滞在率が1%未満の大学の留学生に対しては、ビザ発給手続きの簡素化が行われるなどもメリットも付与している。大学では、このIEQAS制度をうまく活用し、海外留学博覧会で大々的な宣伝活動を行い留学生の誘致で好成績を出している。 政府は、留学生の誘致のため、毎月世界各地で海外留学博覧会も開催している。今年だけでも既に韓国、日本、タイ、コロンビア、カザフスタン、ウズベキスタン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、東ティモール、ベトナム、フランスで開催し、多くの留学生を募集した。
また、「Study in Korea」2は12カ国語で運営されている留学生支援プラットフォームであるが、各大学の留学生の募集要項、奨学金情報、韓国語の学習ツール、ビザ関連案内、就職支援、困った時の各種相談、留学博覧会情報等が載っており、充実したサポートを提供している。特に、GKS(Global Korea Scholarship)と呼ばれる、留学生のための手厚い奨学金も多数用意されており、国費、自費留学生、学位、非学位課程の留学生を問わず、沢山の奨学金情報が掲載されている。ここで言及しておきたいのは、日韓共同高等教育留学生交流事業(奨学金事業)であるが、韓国から日本に留学する学生と日本から韓国に留学する学生両方を政府が支援しており、多くの学部生、院生が恩恵を受けている(年間400人程度を支援)。
また、2008年から、政府は海外人材を確保するため、留学生と企業をマッチングさせるKOTRA(contact Korea)3海外専門人材誘致センターを運営しており、企業はKOTRAを通じ、優秀な留学生人材を確保している。
留学生は貴重な人的資源かつ財源でもあり、コロナは、地方大学にとって存続に影響を及ぼす致命傷となる恐れがあった。地方の大学では、留学生の減少を防ぐため、留学生の誘致に全力を尽くした。まず、大学内にハングル学堂(語学塾)を新設し、友好関係を結んでいる海外の姉妹校と連携し、新入生募集のためのPR活用に注力した。また、既存の留学生の流失を防ぐため、留学生のための相談室を開設するなど、彼らの悩みに沿ったサポートを提供し、多国籍の教員を誘致するための人事活動も積極的に行った。従来、中国に大きく依存していた地方大学は、留学生募集の方向性をベトナムやモンゴルにシフトしたことも誘致の成功に繋がった。
ここでいくつかの成功事例を紹介しよう。
△ 韓南(ハンナム)大学:パンデミックによる留学生の減少を防ぐため、オンラインハングル学堂を新設し、海外姉妹校などを通じ宣伝活動を行った。このような活動は、韓国やハングルに興味をもつ各国の学生から好評を博し、留学生の誘致に成功した。2019年の留学生の数は479人だったが、2021年には668人に、2022年には795人に増加した。
△ 南ソウル大学:留学生の誘致のため、外国人教員を多く採用し、教員も留学生の募集事業に積極に加わったとされる。既存の留学生の流失を防ぐため、彼らが帰国せず学業に専念できるよう、物心両面でサポートし、そのおかげで、留学生の数は2019年の777人から2020年には916人に増加した。
△ 牧園(モクォン)大学: IEQASで優秀大学と認定され、海外留学博覧会で大学を紹介する機会が付与された牧園大学は、積極的な宣伝活動に加え、留学生のビザ解決(入国手続き簡素化への協力)にも注力し、2019年僅か161人だった留学生が2020年には378人、2022年4月には809人に増加した。
△ 青雲(チョンウン)大学:中国への依存度を減らすため、速やかに留学生の募集方向を切り替え、ベトナム、モンゴルで留学生誘致事業を展開し、留学生の多国籍化を実現した。その結果2019年には95人だった留学生が2022年4月には237人まで増加した。
教育部はコロナ発生直後、「安定したインフラの構築、ハイレベルの教育を提供、差別のない機会を付与」を3大原則に、小学校から大学に至るまで、速やかに非対面授業にシフトした。2020年3月より実施された非対面授業は、教育部の主導で、比較的短期間で定着し、留学生も渡韓せず、オンラインで講義を受けられることから、入学者が増加 したとされる。韓国教育学術情報院は、教育部の非対面授業推進に応じられるよう、オンライン授業のためのプラットフォームであるE-勉強所、EBSオンラインクラスなどを新・増設し、安定したオンライン授業の提供に大きく貢献した。デジタルインフラ強国としてのメリットが大きく発揮される瞬間だった。リクルートサイトJOBKOREAが実施したアンケート 4によれば、大学生は、対面授業より非対面授業を好むという結果となったが、多くの学生は高いオンライン授業の質に満足すると回答した。また、留学生の場合、出身国より徹底したコロナ対策により、帰国せず韓国に滞在する留学生も増えたとされる。
韓国における留学生の増加理由を述べてきたが、これらはベトナムからの留学生にも該当する。ただ、他国とは比べにならないほど、ベトナムからの留学生が、2017年から急増しているので、追加で何点か補足しておきたい。
2016年よりTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を巡る中韓関係の悪化 5により、多くの企業が、海外進出の方向性を中国からベトナムや東南アジアに変え、ベトナムからの留学生の増加に貢献したとみられる。
韓国政府は、2018年平昌オリンピックを機に、一時的に東南アジア観光客に対し、ビザなし入国を実施し、多くのベトナム人が訪韓したとされる 6。そのおかげで韓国製品の良さが多くのベトナム人に伝わり、ベトナムにおけるスマートフォンや半導体などの産業の競争力強化に直結したとみられる。
そして、韓国のドラマや映画を含む韓流コンテンツパワーも無視できない存在である。特にBTSやエスパなどグローバルに人気を誇るアイドルグループの増加は、ベトナムでKーPOPブームを引き起こし、ハングルや韓国文化に興味を持つベトナム人が急増したとみられる。これが学位課程のみならず、非学位課程でもベトナム留学生が多く増加した原因と考えられる。また、2017 年よりサッカーベトナム代表の監督に就任(U-23チームの監督にも就任)した韓国人監督パク・ハンソのおかげで、ベトナムはAFC公式大学で初の決勝進出を果たすなど数々の好成果を残し、韓国に対し友好的な感情を持つ学生が急増したとされる。
近年は、ネットフリックスでの韓国作品の続く成功により(例:イカゲーム)韓国に留学するベトナム人の数は、増え続けると想定されている。
このように、韓国は、政府・民間が一丸となって、留学生の誘致事業に取り組み、世界中の多くの国が留学生数の減少で悩むなか、コロナにぶれない強者の姿を見せてくれた。政府の政策も重要であるが、民間企業・大学などがタイムリーに、政策を基盤として、活用できる事業を積極的に推進することが大事である。韓国の留学生誘致の成功は、民官協力があったからこそ成し遂げた成果だと思われる。