2023年02月02日 JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田 侑奈
グローバル競争が日々激化している中、世界各国の人材確保戦略も多様化している。韓国では、海外にいる優秀な人材を確保するため、科学技術通信部が韓国研究財団の協力を元に、海外優秀科学者誘致事業を展開している(通称BRAIN POOL事業)。こちらは、国内の産学研連携において、必要とされる海外の優秀な科学者を国内の研究機関に誘致し、研究環境の国際化を図るものであり、誘致に応じている研究機関は、政府出捐研究機関から大学や企業の付設研究所に至るまで多様で、傘下には下記2つのプログラムが走っている。
申請方法は2つのプログラムとも同様だが、①海外にいる研究者が研究をしたい韓国の産学研機関を自ら探し、マッチングに成功したら、申請書を提出する方法。こちらは研究者のマッチングの手間を減らすため、後述するが人材マッチングプラットフォームも運営されている。②国内の研究開発機関または責任者が優秀な海外研究者を発掘して国内に誘致する方法がある。
このプログラムは、海外の優秀な科学者を国内の研究開発の現場に誘致し、国内の研究開発レベルを強化し、国際協力ネットワークを構築することを目的としている。
■ 誘致対象:科学技術全分野の海外に居住中の博士または博士学位は有しないが海外の企業等で5年以上の研究開発経歴を有しているもの(国籍は問わない)
■ 支援規模:短期の場合6~12カ月、長期は3年となる。年俸は元の所属先での年俸を保障しつつ、月額500万ウォン~2500万ウォンの間で変動する。また、研究材料費として別途毎年100万ウォンが支給されるほか、航空チケット代、保険料、子女の学費、滞在費など経費も支給され、長期の場合は最大年間1,200万ウォンまで払われる。2023年には122人程度を新たに誘致する予定である。
このプログラムは、海外の優秀研究機関にいる世界トップレベルの人材を、正規職として国内に誘致することを目的としている。BRAIN POOLよりハイレベルの人材を誘致するプログラムである。
■ 誘致対象:BRAIN POOLプログラムと同じ
■ 支援規模:滞在期間は最大10年であり、正規職として国内の研究機関で勤務する。人件費や研究活動費の直接経費は年間最大6億ウォンまで支給される。その他間接経費も年俸の5%相当する金額で支給される。2023年は新たに5人程度誘致予定である。
年度 | インド | アメ リカ |
韓国 (海外研究機関所属) |
中国 | フランス | 日本 | ロシア | カナダ | ドイツ | イギリス | その他 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2019年 | 91 | 21 | 67 | 35 | 7 | 3 | 5 | 2 | 5 | 3 | 100 | 339 |
2020年 | 89 | 24 | 68 | 28 | 5 | 2 | 5 | 5 | 1 | 3 | 129 | 359 |
2021年 | 88 | 35 | 66 | 28 | 7 | 3 | 5 | 2 | 3 | 2 | 153 | 393 |
その他、上記2つのプログラムのため、人材マッチングプラットフォームも運営している。すなわち、このプラットフォームでは海外研究者と国内の研究機関をマッチングさせているが、韓国の研究機関で勤務を希望する海外の研究者は、ここに自分の履歴書等をアップロードするだけで、面接までプラットフォームのサポートを得ながらスムーズに進められる。既に364人の海外研究者が登録されており、加わっている韓国の研究機関は406に至る。
なお、脈絡は違うが、研究人材育成のため、BRAIN LINK事業も展開している。こちらは、優秀な研究人材を育成するため、国内の研究チームを選定して、海外の大学や研究機関に派遣して共同研究を行うものである。各研究チームは海外で3年間勤務をすることになるが、年間16億ウォン以内の規模での支援が受けられる。応募が可能な分野は、いわゆる12大国家戦略技術分野で、以下のものが含まれる。
△半導体・ディスプレイ、△二次電池、△先端移動手段、△次世代原子力、△先端バイオ、△宇宙航空・海洋、△水素、△サイバーセキュリティ、△人工知能、△次世代通信、△先端ロボット・製造、△量子
また、法務部は、海外の優秀な科学技術人材が韓国国内での定着を促すため、2022年12月より「科学技術人材永住権・帰化ファーストトラック制度」を導入した。すなわち、4つの科学技術院(KAIST、光州科学技術院、蔚山科学技術院、大邱慶北科学技術院)、科学技術連合大学院大学(UST)に所属されている修士・博士課程の学生は、学位取得後3年間韓国に居住すれば、就職されなくても、永住権取得または帰化が可能であり、二重国籍も認める方針である。(※審査は、点数制を採用しているものの、学歴、研究実績、研究履歴、韓国語能力などが主な対象であるため、不正研究等がない限りは条件に満たされる)
BRAIN POOL事業は、世界に向け展開されている優秀な研究者誘致事業だが、インド、中国、アメリカからの研究者が多く、日本は毎年2~3人程度にとどまっている。ビザ制度等も改善され、海外の優秀人材が更に定着しやすくなっている韓国であるが、BRAIN POOL事業は日本で関心を引くことができるか、これからの展開が注目される。