2023年02月10日 JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー 松田侑奈
韓国科技情報通信部は1月19日、今年の計画としてICT人材育成に4,537億ウォンを投資し、5万2,000人のICT人材を育成すると明らかにした。これは、昨年政府が発表した「デジタル人材100万人育成計画」と「サイバーセキュリティ人材10万育成対策」の本格化ともみられる。
企業は大学や地方自治体と連携し、企業が必要とする人材を自ら育成・採用する「キャンパス・ネットワーク型SW(ソフトウェア)アカデミー」を通じ、今年は、1,250人のICT人材を育成する予定である。これは昨年に比べ650人増加した数値である。「SW中心大学」に選定された大学も11カ所増え、計51の大学でSW専門人材を育成していくこととなる。
SW中心大学とは、政府がいくつかの大学を指定し、専攻と関係なく、全学部生がSWの基礎知識を身につけることが義務化されている大学を指すが、既にSWが専攻である学生は、更なる深化教育を受けることで、他大学の学生に比べ強みを持つようになる。SW中心大学出身の学生は、「専門分野×SW知識」という強みで、就職活動で有利な立場になれる。「情報保護特性化大学」も3つから5つとなり、サイバーセキュリティ分野の人材が増える見込みである。
学部生のみならず、修士・博士人材の育成にも注力しているが、政府は今年「AI半導体大学院」を3つ新設する予定と明かした。また、「AI融合イノベーション大学院」を4つ、「メタバース融合大学院」を3つ、「融合セキュリティ大学院」を2つ新たに選定し、大学のIT研究センターもAI、半導体、5G・6G、量子、メタバース、サイバーセキュリティ分野に係るところが増える見通し。
教育部は、2022年から小中学生向けのカリキュラムを改定し、情報に関わる科目が従来の2倍以上に拡大された。それに合わせ、「AI先導小中学校」を1,233校選定し、教員に対するデジタル研修等も大幅に増やす予定。
韓国でICT人材不足並みに深刻なのが、バッテリー業界の人材不足である。韓国電池産業協会によれば、2020年末基準、バッテリー業界の人材不足率は、修士の場合21%、博士は25%とである。これは電気自動車需要の急増がその原因と言われている。各企業では政府に頼らず、「契約学科」を通じ、自ら人材育成と確保に取り掛かっている。韓国SKイノベーションの電池子会社「SKオン」は韓国科学技術院(KAIST)とともに、産学連携教育プログラムである「SKBEP(SK on-KAIST Battery Educational Program)を新設したが、修士・博士課程の学生は、本プログラム履修後、SKオンでの就職が保障される。プログラム履修にかかる学費、奨学金等も企業が負担し、企業内のバッテリー専門家による講義やキャリア相談も企業は無料で提供している。LGエネルギーソリューションやサムソンSDI等も同じ方法で、大学と連携しバッテリー人材の育成・確保に取り掛かっている。
各企業は、学部生・院生の育成とともに、自社での若手人材育成にも注力しており、自ら社内で教育プログラムを実施している。大手企業のデジタル人材育成プログラムは下記表の通り。
企業のプログラム名 | トレーニング 期間 | 対象 | 人数 (年間) | 教育内容 |
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サムソンSSAFY | 12カ月 | 29歳以下、4年制大学卒業者 | 2,300人 | ソフトウェア |
LG Aimers | 2カ月 | 29歳以下、学歴不問 | 4,000人以上 | AI専門家教育 |
POSCO青年AI・BIGDATA アカデミー | 12週 | 34歳以下、4年制大学卒業者 | 300人 | AI、ビックデータ分析 |
KTエイブルスクール | 6カ月 | 29歳以下、4年制大学卒業者 | 1,200人 | AI開発者、デジタルイノベーションコンサルタント |
NAVERブースターキャンプAI TECH | 5カ月 | 年齢・学歴制限なし | 500人 | AI エンジニア |
第4次産業革命時代の本格化につれ、ICT分野人材不足が続き、韓国では、企業、政府、大学が一丸となって、人材育成に全力で取り組んでいる。まだ、人材不足の状況は改善できていないが、毎年育成している人材の数は確実に増えている。企業が推進している「契約学科」や「社内プログラム」は斬新な発想であり、変わりつつある国際社会のトレンドを反映しているものとも思われる。人材確保に向けた、韓国の新しい戦略は果たして成功になるか。今後の展開に注目していきたい。