韓国における第6世代(6G)移動通信の展望と開発状況

2023年03月06日

チャン・ヨンミン、イ・ソンチュン両氏の共著

チャン・ヨンミン (Yeong Min Jang):
韓国ソウル国民大学校電子工学府 敎授

1985年に韓国の大邱にある慶北大学校で電子工学の学士号を、1987年に修士号をそれぞれ取得し、1999年に米国マサチューセッツ工科大学大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得した。1987年から2000年まで韓国の大田に所在する韓国電子通信研究院(ETRI)に所属していた。2002年からは大韓民国のソウルにある国民大学校電子工学部に所属している。2018年からソウルにある国民大学校インターネット・オブ・エネルギー研究センター長を、2021年から国民大学校AIモビリティ研究所長を務めている。
2019年には韓国通信学会(KICS)会長であった。また、KICSのフェローでもある。2018年にアーウィン・ジェイコブス博士賞を受賞した。2020年からはIEEE 802.15.7a OCC TGの会長である。ICT Express(SCIEの引用検索に掲載)の編集長でもある。KICSのフェローでもある。研究分野は、5G/6G移動通信、インターネット・オブ・エネルギー、IoT(モノのインターネット)プラットフォーム、AIプラットフォーム、光無線通信、AIモビリティ、IoTなどを研究している。

イ・ソンチュン (Seong Choon Lee):
韓国ソウル国民大学校産学協力団 教授

1982年に韓国・ソウル大学校で電子工学の学士号を、1984年に修士号を、2001年に博士号の学位をそれぞれ取得。1985年~2017年KTで有無線ネットワーク研究所長とサービス研究所長とKT Telecopで技術部門長を務めた。2018年~2021年5G関連の国家プロジェクトを管理するギガコリア事業団の代表のもとで勤務。2022年から国民大学校の産学協力団の教授を務めている。
研究分野は、5G/6G移動通信、5Gコンバージェンスサービス、ビジュアルメディア伝送など。

5Gから6Gへ主導権争い

2019年4月に世界で初めて第5世代(5G)移動通信システムが商用化されたことを受け、2022年12月には、韓国の5G加入者数は2,800万人を超えた。また、第4次産業革命を迎えるにあたり、5Gに特化したプライベートネットワークや5Gコンバージェンスサービスを全国規模で展開させ、差別化された5Gネットワークを構築することで、韓国は真の5G時代に備えている。そうした中しかし、韓国だけでなく世界の主要国は現在、5Gの商用化および6Gの開発で技術の主導権争いをしている。各国とも将来のハイテクサービスに向けて、6G時代から本格的に商用化されると考えられる空中・海中の通信ネットワークの展開など、6G技術を確保する重要さを認識しているようである。

来るべき6G時代の主な傾向としては、接続デバイスの爆発的な増加、人工知能(AI)を使用した通信技術の拡大、オープンコラボレーションを利用した通信ネットワークの開発、通信技術を利用した社会的格差の是正と持続可能な開発が挙げられる。このことから、6Gは5Gよりも50倍速い技術で完全没入型XR、高精度モバイルホログラム、デジタルレプリカなどのサービスを現実の生活に取り入れることができるDX (デジタルトランスフォーメーション)であり、スーパーギャップ (他者と大きな差をつけ優位に立つこと)イノベーション技術であると見なされている(詳細については、https://cdn.codeground.org/nsr/downloads/researchareas/20201201_6G_Vision_web.pdf を参照)。

セキュリティ保証、最高支援速度目指す

韓国は6Gテクノロジーの実現に向けて超高性能を視野に入れており、ピーク時1Tbps、体感時1Gbpsの超高速データ転送、100GHz以上の周波数帯で数十GHzの超帯域幅、空白時間が0.1msかつエンドツーエンド遅延が数ミリ秒という超高精度を実現しようとしている。目指しているのは常にセキュリティを保証する超信頼性であり、10kmの超空間と1,000km/hの最高支援速度、学習型モバイル通信を行う超知能(コネクテッド・インテリジェンス)、およびコンバージェンスサービスなどが含まれる。

以下の図はETRI(韓国電子通信研究院)が提唱する6GKPI(主要性能指標)をまとめたものである。6Gに関する最終的な展望は、韓国を含む国々のすべての意見をまとめ、2023年に国際電気通信連合(ITU)が完成させると予測されている。

6G KPIと5G KPIの比較図 (ETRIによる)

2020年8月、韓国は6G時代をリードする「将来の移動通信研究開発推進戦略」を発表し、2021年6月からは科学技術情報通信部、通信事業者、通信製造業者、中小企業、学界、研究機関から構成される「6G研究開発戦略委員会」の運営を行っている。委員会は産業界や関連する専門家の意見を聞き、プロジェクト全体の目標、現状、および実績について情報交換を行い、検証する。2022年5月に発足した新政府は、6GとAIを中心とした『デジタル国家戦略』を策定した。AIは韓国がリードする分野であり、『スーパーギャップ戦略技術』の一つとして加えられた。韓国は、2026年までに国内で世界初の6G技術の実証実験を行うという挑戦的な目標を掲げた。これにより、6G研究センターを3カ所から7カ所に拡張し、低軌道衛星通信、6G PPP(官民連携)、O-RAN(オープン無線アクセスネットワーク)などの6G商用化・標準化中核技術を確保することとなる。

世界初の6G技術実証へ一丸

世界初の6G技術実証を目指して韓国は、政府、通信サービスプロバイダー、産業界、研究機関、学界などのさまざまな部門が6G関連の研究開発活動を非常に活発に行っている。ETRIが主管機關の下、2,147億ウォンを投入して費やす『6G核心技術開発プロジェクト』が2021年4月から5年間進められている。このプロジェクトには通信事業者、サムスン電子、光学/衛星/ RFソリューション企業、大学を含む37の産学研究機関が共同で参加している。6G研究プロジェクトは、超高性能、超帯域幅、超空間、超知能、超精密など5つの主要分野から成り立っており、参加組織は各分野の戦略的タスク(合計8つ)を実行している。超高性能分野および超帯域幅分野の目標は、6Gの帯域候補であるテラヘルツでテラバイト規模の伝送速度を確実にすることである。超空間分野では、衛星通信技術と移動通信技術を融合させ、海上、遠隔地、災害時にギガ規模のサービスを提供する3D宇宙通信技術を開発する。超知能と超精密の分野は「インテリジェント無線アクセス技術」、「インテリジェント6Gネットワーク技術」、「エンドツーエンド高精度ネットワーク技術」を扱い、ネットワークインフラの効率性を高めようとしている。

サムスン、LGも熾烈に展開

5Gの最先端技術を利用して6Gで世界をリードするサムスン電子とLGエレクトロニクスの取り組みも熾烈に展開されている。2019年以来、サムスン電子はサムスンリサーチに次世代通信研究センターを設立し、6Gの先行技術の研究に熱心に取り組んできた。2020年7月、次世代6G移動通信ビジョンが発表された。2021年5月、6Gビジョンの実現に必要な6G周波数ホワイトペーパーが発表され、次世代通信用の6G周波数を確保する世界規模の研究が提案された。「サムスン6Gフォーラム」では、ディープラーニングを用いたMassive MIMOアンテナシステムのチャネル状態情報フィードバック技術など、さまざまな6G関連技術が紹介された。LGエレクトロニクスは、テラヘルツに関するソース技術の開発と検証などの研究を行っており、最近、フラウンホーファー研究機構と共同で、100mの見通し条件でテラヘルツ伝送に成功した。LGエレクトロニクスは世界規模の協力活動も活発に行っており、通信産業ソリューション協会(ATIS)が主催するNext Gアライアンスの団体議長社に任命されている。

韓国では、全国の5Gネットワークが完成し、6G時代では陸上と衛星間の垂直統合3D通信技術の出現が予想されるため、国内の3つの通信会社であるSKテレコム、KT、およびLGU+は、衛星通信分野で6Gのリーダーシップを確保しようと、本格的な活動を行っている。低軌道クラスター衛星通信システムの開発、海外の衛星通信企業との連携強化、海外の衛星打ち上げプロジェクトへの参加、量子コンピューターを使った低軌道衛星ネットワーク最適化技術の開発など、さまざまな衛星通信プロジェクトや技術開発を競って進めている。また、韓国通信學會 (KICS) をはじめとする様々な学術機関も6G関連の研究を活発に行っており、研究会、会議、ワークショップ、ディスカッション・フォーラムを通じて6Gに関する政府の方針や研究機関に広く反映されている。韓国の政府、産業界、大学、研究機関全体が6G開発に参加しているため、2026年には6G技術の実証を成功させ、6G技術で世界をリードできると予測されている。

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