2023年03月15日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈
離島に住んでいるとしても、注文した商品が1時間で手元に届く時代は、もはや夢ではないかもしれない。韓国政府は、2026年までにロボット配送、2027年までにはドローン配送を全国で定着・普及させていくと宣言した。これらが実現されると、全国どこでも1時間あれば配達が可能となる。いわゆる「全国1時間配送時代」が幕開けする。
都心であれば30分、遠い所だと1時間での配送を可能にするため、注文配送センター(MFC:Micro Fulfillment Center)も設立される予定である。
国土交通部(日本の国土交通省に相当)は2月20日、「スマート物流インフラ構築方案」を公開した。
こちらの方案には、主に3つの内容が含まれる。
1つ目は、次世代の物流サービスの実現である。具体的には、配送ロボットやドローンの普及、AIを基盤とする当日配送体系の構築、次世代物流技術の実現を指す。
2つ目は、世界最高レベルの物流ネットワークの構築である。詳細は、都心の物流インフラの構築、グローバル物流拠点作り、物流情報統合プラットフォームの構築である。
3つ目は、先端技術を基盤にする物流セキュリティの強化である。こちらには、ICTを基盤に貨物車へのモニタリングを強化することと、物流施設安全管理システムを構築することが含まれる。
国土交通部は、物流倉庫の自動化、無人化等は既に普及されているにもかかわらず、「物流産業は労働集約型産業」というイメージが定着されているため、更なる改革とイノベーションが必要であるとし、これから大々的な支援事業を展開するとした。
政府が「全国1時間配送時代」の実現をこれだけ断言できるのは、韓国におけるクイックコマース市場の発展が著しいためである。既に、スーパー、コンビニ、カフェ、ショッピングモール、ドラックストアなどがクイックコマース市場に参戦しており、鮮度を要する食料品から処方箋で出される薬、衣類店、ブランド品、雑貨に至るまで、生活に必要な商品の多くは、1時間以内に配送されている。2025年までクイックコマース市場は5兆ウォン規模に成長する見込みである。
コンビニ・スーパー等を運営する小売業の大手GSリテールが公開したデータによると、1時間配送サービスの実施10日間でコンビニに入った注文件数は10万件を突破し、スーパーでは導入月の売上が先月に比べ457%増加したという。
韓国では、ECサイトの当日配送はもはや常識であり、例えば、大手ECサイトCOUPANGでは今日の23時まで注文すると翌日の朝には玄関に届く「ロケット配送」という配送システムを運営している。消費者としては便利でありがたい仕組みであるが、その裏には配達員の犠牲があり、過酷な労働環境が度々問題となっている。配達員は個人事業主であるため、労働基準法が適用されず、特にコロナ禍で急増したネット注文により、配達ノルマが更に重くなり、配達員の事故や過労死につながるケースが多くなった。配達員を配慮するため、文在寅政権は8月14日を「配達のない日」に定めるほど、配達員の労働者環境は大きな社会問題となっている。これからロケットやドローンによる配送が実現されるのであれば、斬新な配達システムに伴い、生活環境が更に便利になるだけでなく、配達員の労働環境問題もある程度改善されるかもしれない。生活の利便性向上と人への配慮を兼ねた新しい物流システムの登場と発展を注視していきたい。