炭素を吸収する「ブルーカーボン」で気候災害対応能力強化 韓国

2023年6月14日 JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー 松田侑奈

韓国の海洋水産部は5月31日、「ブルーカーボン推進戦略」を公開した。ブルーカーボンとは、韓国では、海洋が吸収する炭素とも呼ばれるが、海藻や海草、植物プランクトンなどが主に光合成によって、大気中から炭素を取り入れ、それを従属栄養生物が利用するという一連のプロセスの中において、海洋生態系に吸収され固定される炭素のことである。

国際社会におけるブルーカーボンへの研究はまだ初期段階ではあるが、炭素吸収速度が陸上森林の50倍ということで、注目を浴びている。ブルーカーボンは、カーボンニュートラルや気候変動に役立つ可能性が極めて高いと評価されている。

海洋水産部は、2030年までの国家温室効果ガス排出削減目標(NDC)や2050年のカーボンニュートラルロードマップの目標を達成するため、ブルーカーボン推進戦略を制定したと明かした。

当該推進戦略は、①海洋の炭素吸収力及び気候災害対応能力の強化、②民間・地域・国際協力等を通じたブルーカーボンへの参加促進、③新規ブルーカーボンの認証及び長期推進のための基盤づくりに関わる内容で構成されている。現在、ブルーカーボンと認証されているのは、海藻類(seagrass)、塩生植物(salt marsh)、マングローブ(mangrove)である。

韓国政府は、ブルーカーボンを通じ、炭素吸収量の増加を目指しているが、昨年の1万1000tを2030年には106万6000tに、2050年には136万2000tに増やしていくのが目標である。海洋の炭素吸収力を強化するため、2050年まで全体干潟面積(2482km2)の約27%に塩生植物を植える予定である。また、海藻を植える方法で、海の中の森の面積を2030年まで85%増大(540km2)するとした。

韓国では現在、起亜自動車をはじめにKB、ヒョースングループ等が海の中の森を通じたブルーカーボン拡大プロジェクトを進行しているが、政府は、より多くの民間企業の参加を誘導するため、「ブルーカーボンESGポートフォリオ」を考案している。

漁業に従事している人々には、これから「海洋生態系サービス支払制」が導入される予定である。海洋生態系サービス支払制とは、政府や自治体が、海藻類の養殖技術をもっている漁業従事者と生態系を保つための事前契約を締結し、漁業従事者が造った海の森の面積や機能を考慮したうえで、契約金を支給する制度である。韓国は海藻類生産量世界3位であり、この制度は炭素吸収能力強化に大きく貢献すると考えられる。

韓国はこれから東南アジア諸国・太平洋島嶼国(とうしょこく)との国際協力を通じて、炭素削減事業を推進するとともに、国内では海域別に研究拠点をつくり、ブルーカーボン研究を行い、新規ブルーカーボンの開拓する予定と明かした。

ブルーカーボンへの研究は未開拓の分野であり、成功可能性を確言できないが、ブルーオーシャンであることは間違いない。韓国のブルーカーボン推進が成功となれば、世界共通の課題であるカーボンニュートラルや気候変動による災害の減少に大きく貢献するだろう。

上へ戻る