2023年6月23日 松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
いつでも、どこでも、自分の健康情報を確認・活用できるデジタル環境を作るため、韓国政府が動き出した。保健福祉部は6月9日、「2023年保健医療データ政策審議委員会」を開催し、複数の医療機関に分散されている医療データを本人に提供し、本人が同意すれば、医療機関にデータを転送できる「健康情報ハイウェイプラットフォーム」を構築すると明らかにした。
昨年既に245の医療機関がプラットフォームで事前検証を行い、プラットフォームが問題なく使えることが確認された。そこで、今年は既存の245の医療機関に、更に600以上の医療機関をプラスしてプラットフォームに連携し、正式に稼働させる予定である。
当該プラットフォームに連携される予定である情報には、①患者の基本情報、②医療機関の情報、③診療に関する情報、④診断内訳、⑤薬物処方内訳、⑥診断検査に関する情報、⑦画像検査に関する情報、⑧病理検査に関する情報、⑨手術内訳、⑩アレルギーと副作用、⑪診療記録、⑫その他の検査の記録、との12の項目が含まれる。また、健康保険組合にある健康診断履歴や診療履歴、疾病管理庁にある予防接種記録等も連携される。
データ主体である本人は、「マイ健康記録アプリ」からこれから情報を確認、保存できる。今はまだ「デジタルヘルスケア振興及び保健医療データの活用促進に関する法律」が審議中であるため、医療機関への直接転送はできないが、医療機関を受診した際に、医師に自身のアプリを見せることは可能である。当該法律が正式に制定されたら、個人と医療機関、医療機関同士での医療データの転送や交流が可能になる。
マイ健康記録アプリは、自分の医療データをまとめるだけでなく、服薬時間のアラート、服薬総合管理(複数の薬を服用する場合の安全性チェックやアドバイス等)も行ってくれるので、個人の健康管理に大きく役立つと思われる。健康情報ハイウェイプラットフォームが正式に立ち上がれば、本人の活用目的によっては、個人の診療記録を保健所や社会福祉施設、民間のサービス機関、介護機関にも転送できるようになる。
データ産業の重要性が益々高まるなか、韓国は、2021年に「データ3法」と呼ばれる「信用情報の利用と保護に関する法律(信用情報法)」、「個人情報保護法」、「情報通信ネットワーク利用促進及び情報保護などに関する法律(情報通信ネットワーク法)」の改正を通じ、活用できるデータの幅を大きく広げた。データ3法の改正後、韓国政府は「マイデータ」という、銀行、保険会社、クレジットカード会社などに散在されている個人の信用情報を本人がアプリ一つで確認・管理できる仕組みを導入したが、実施僅か8カ月の累積加入者が5,480万人を突破するほど大人気だった。マイデータの順調な推進により、データ事業のノウハウを蓄積した韓国政府は、医療データに着目し、更なる発展を目指している。
韓国では医療機関で患者が手術や治療を行う際に、他所での手術歴や治療歴があれば、その医療機関から医療データを取り寄せる必要があるため、確認作業だけでもかなり時間がかかっている。健康情報ハイウェイプラットフォームが完成すれば、このような手間を省くことができ、医療機関もタイムリーに患者の健康情報を確認できるため、治療のベストタイミングを逃すことを減らせると思われる。
また、少子高齢化問題に悩んでいる韓国社会では、高齢者のヘルスケアが課題として浮上しているが、高齢者であるほど、服用する薬の数が多く、服薬ミス等も発生している。マイ健康記録アプリは、高齢者に服薬に関する適切なアドバイスも提供できるので、高齢者のヘルスケアにも貢献できると思われる。