【調査報告書】『第4次産業革命時代における韓国の科学技術』

2023年7月4日 JSTアジア・太平洋総合研究センター

科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『第4次産業革命時代における韓国の科学技術』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy22_rr07

エグゼクティブ・サマリー

本報告書は、日本にとって、重要な科学技術協力パートナーである韓国の近年の科学技術政策や施策を明らかにすることを目的に、調査・取りまとめたものである。

特に、第4次産業革命時代、すなわち2017年から今日に至るまで、政権でいうと、文在寅政権から尹錫悦政権に至るまでの科学技術政策や事業に焦点を当てている。

第4次産業革命に着目した理由は、韓国の科学技術において第4次産業革命は、2017年頃から変わらぬ重要なキーワードだからである。2016年の世界経済フォーラムの年次総会で第4次産業革命が議題となってから、AlphaGoショックや2017年の大統領選挙での各候補者の頻繁な言及により、韓国では第4次産業革命に対する関心が一気に高まった。文在寅政権は、2017年に大統領直属の第4次産業革命委員会を新設して諸政策を打ち出すほど、第4次産業革命に対する高い関心を示し続け、政権交代の際も「第4次産業革命時代を先導するための次期政権の課題」を取りまとめ、引き続き第4次産業革命に対し重視すべきと主張した。そして、2022年5月に発足した尹政権も国政課題として第4次産業革命時代を先導できる革新技術の振興を強調するなど、第4次産業革命は、まさに今の韓国の科学技術を代表するホットなワードである。

第4次産業革命時代の始動時、すなわち2016~2017年頃、韓国の科学技術は決して高いとはいえないレベルであった。2016年、スイスの投資銀行UBS「第4次産業革命に向け準備が整っている国のランキング」で、韓国は下位圏である25位に止まった。しかし、その後、韓国は現状をしっかり受け止め、直面している課題の解決に真剣に取り組み、諸政策や事業に取り掛かってきた。その結果、2021年には、研究開発費は世界5位、研究開発費がGDP で占める割合世界2位、人口比研究者の数世界1位を記録するなど、研究開発体制は強力に整備されてきた。また、研究開発の成果においても論文数や特許出願数は継続的に増加しており、論文件数世界12位、PCT出願件数世界5位となるなど、韓国の科学技術は目覚ましい発展をみせてきた。

本稿は、以下の3点を問題意識として設定し、分析を展開していく。即ち、第4次産業革命への準備が整っていないと評価された韓国は、第4次産業革命時代を勝ち抜くため、どのような戦略を立ててきたのか。そして、一連の戦略的取組の実施で、韓国の科学技術力はどのようなレベルに達しているのか。さらに、2022年5月に発足した尹政権は、どのような科学技術分野に重点を当てているのか。

上記の問題意識に沿って、本稿は以下の4章構成にしている。

まず、第1章「第4次産業革命時代に向けての韓国科学技術の位置づけと役割」では、第4次産業革命に対する韓国の受け止めと第4次産業革命始動時、韓国が抱えていた課題(弱み)と強みを分析する。

続く、第2章「第4次産業革命時代を勝ち抜くための戦略」では、これらの課題を抱えているうえで、韓国が第4次産業革命時代を勝ち抜くため、どのような戦略を立ててきたのかを分析する。具体的には、法制度、基礎研究分野、人材育成、産業の支援などに分け、ここ数年注力してきた政策・事業を詳細に紹介する。

第3章「韓国の科学技術力の現状および戦略への評価」では、韓国科学技術の現状を各種指標で示し、一連の戦略で収めた成果と韓国社会と科学技術の発展に残された課題を分析する。

最後の第4章「韓国の科学技術の展望―新政権への期待を兼ねて」では、新政権の国政課題および重点を置いている科学技術分野、そして科学技術情報通信部の課題について紹介し、今後の展望について述べている。

本調査報告書が、日韓の科学技術協力事業の推進や日本の科学技術戦略の策定に資するための基礎資料として、活用されることを期待する。

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