韓国、2030年まで電気自動車420万台、充電器123万台普及へ

2023年7月18日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国の環境部は6月29日、「電気自動車充電基盤施設の拡充と安全強化方案」を公開した。今回の方案は、環境部、産業通商資源部、国土交通部、消防庁等が共同で制定したもので、電気自動車(EV)の充電設備の拡大と火災予防・対応が主要内容である。

韓国政府は、韓国で電気自動車へのシフトが進んでいると強調し、2030年まで電気自動車420万台の普及を目指すとした。その目標の実現に向け、電気自動車の運行に必要な充電施設等の基本インフラに投資を集中させ、充電器も24万台(2023年5月末基準)から123万台に増やしていく。

充電市場を民間中心に転換するため、公共急速充電器7,000台を民間に売却し、会員カード1枚で全国のあらゆる充電器を使用できるようにする。また、充電事業者間の決済情報連携を拡大し、スマホ決済ができるように、モバイル会員カードやウォレットアプリも今年中に開発する。

環境部長官は、「韓国の充電器の普及率は世界最上位レベルであるが、多くは緩速充電器となっているため、利便性の向上が必要である。電気自動車の更なる普及を実現し、カーボンニュートラルにも貢献したい」とした。

韓国政府は、住宅街等の生活拠点では緩速充電器を、高速道路のサービスエリア等の移動拠点には急速充電器を設置する予定と明かしつつ、現在の新築集合住宅における充電器の義務設置率は5%であるが、2025年まで10%に引き上げるとした。既存のガソリンスタンドやLPG充電所には、電気自動車充電器、太陽エネルギーと燃料電池等分散型エネルギーを設置して、「エネルギースーパーステーション」への転換を図る。

補足すると、分散型エネルギーとは1、比較的小規模で、かつ様々な地域に分散しているエネルギーの総称であり、従来の大規模・集中型エネルギーに対する相対的な概念である。分散型エネルギーには、①使用する創エネルギー機器の別、②電気・熱といったエネルギー形態の別、③機器単体か、複数機器の組合せで使用するのかの別など、様々な形態が存在する。

なお、電気設備の容量が足りなく、充電器の設置が難しいと言われる老朽アパートやマンションには電力配分型充電器を、充電ニーズが急増している地域には、移動型または無線型新技術充電器を普及させていく予定である。共同住宅、業務施設等では、知能型ロボットが電気自動車充電における全てのプロセスを実施する仕組みを導入する。

充電器の普及に向け、既存の規制も緩和される。高速道路のサービスエリアでの充電器設置に向け、設備の容量拡大を検討し、充電設備を遠隔で制御・監視する電気安全管理員の一人あたりの担当箇所は60から120に拡大される。

充実したアフターサービスを提供するため、韓国政府はこれから「不便申告センター」を設置し、充電器の故障を最小化し品質を向上させるため「品質改善協議体」も運営する。また、連休やお正月、梅雨季節等非常時の対応を行うT/Fチームを運営し、365日故障に迅速に対応できるようにする。

電気自動車の命とも言われるバッテリーの安全性を保障するため、バッテリー安全性認証、事後検査制度、履歴管理制度を導入し、安全性の確認が十分に確認された電気自動車のみが市場進出ができるように徹底する。

充電設備の火災予防のため、充電設備、付属品について定期検査を行い、優秀と判定された電気自動車と充電器には補助金が支給される。政府は、車両別に鎮火方法を検討し、必要な設備を拡充することで、火災への迅速な対応を図る同時に、充電施設設置・管理人材育成事業を通じ、毎年100人以上の専門家を育成し、人材不足問題も解消するとした。

電気自動車事業は韓国の未来自動車事業の一環で、第4次産業革命時代をリードするためBIG3事業、尹錫悦政権の12大国家戦略技術にも含まれている。2023年の科学技術情報通信部の予算を見ると、未来自動車を中心とする未来型モビリティに1,173億ウォンが投資される予定である。2023年2月には、産学官研関係者80人以上が参加するモビリティイノベーションフォーラムが開催され、民官協力等多様な観点から、未来自動車事業に関する議論が行われた。電気自動車のグローバル市場でのシェア確保に先立ち、国内での電気自動車普及を目指している韓国の電気自動車戦略は成功となるか。未来自動車事業の動向を引き続きフォローしていきたい。

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