韓国、輸出の回復に向け、過去最高の184兆ウォンの貿易金融支援

2023年7月19日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国の産業通商資源部は7月4日、下半期の主要産業政策について発表を行った。韓国政府は、輸出の回復を産業政策の最主要課題と選定した。韓国は7月、2022年2月以来、約16カ月ぶりに貿易赤字から黒字に転換したが、輸入の減少率が輸出の減り幅を上回る「不況型貿易黒字」であるため、本格的な輸出回復までは道のりは険しいと言える。

韓国政府はまず、資金調達の壁により輸出ができない企業の数をゼロにするため、過去最大規模である184兆ウォンの貿易金融政策を実施すると明かした。また、中東地域ではLNG運搬船、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域では電気自動車(EV)等、主力輸出業種別に重点輸出プロジェクトを発掘し、首脳の海外訪問等と連携する方法で、成果の可視化を図る戦略を立てるとした。

産業政策①―認可・許可タイムアウト制の導入

産業の活性化に向け、韓国政府は既に多くの規制(例えば、半導体の団地容積率における規制緩和、半導体特化有害化学物質施設における基準を制定)を改善してきたが、更なる緩和を目指し、これから「認可・許可タイムアウト制」を実施すると宣言した。認可・許可タイムアウト制とは、特別な理由がなく60日内に認可・許可の処理がなされていない場合は、一律認可・許可とみなす制度である。化学物質管理法、化学物質登録及び評価等に関する法律、重大災害企業への処罰法等は、所管省庁を問わず、国務調整室規制改善タスクフォースで実際の状況を配慮し改正する予定である。

産業政策②―先端産業にR&D予算の70%を集中させる

韓国政府は、先端産業への投資を拡大するため、金融支援・税制優遇措置も拡大する。バイオ医薬品等の先端産業分野における税制支援規模を拡大し、バッテリー、半導体等の先端企業の買収に10兆ウォン以上の金融支援を行う。先端産業と素材・部品・設備供給ネットワーク分野への外国人による投資を積極的に誘致し、2024年からは外国投資企業のR&D事業も新たに展開する予定である。

また、海外に進出している国内の先端産業分野企業を呼び戻すため、呼び戻しに向け支援規模を大いに強化するとした。

下半期には、業種別の競争力強化対策も制定される予定であるが、8月に先端ロボット産業戦略、9月には造船業競争力強化方案、10月にはモビリティ規制ロードマップ2.0が順次公開される。核心技術力確保に向け、R&D体系の再編が行われるが、従来の「バランスよく支援」する慣例をなくし、先端技術確保に関わる40の重大プロジェクトにR&D予算の70%を向ける予定である。2024年には、米国のMITやエール大学等と共同研究支援プログラムが新設され、共同研究が拡大される見込みである。

産業政策③―地方力量を大幅な強化

地方の力量を強化するため、14の市・都にて、87兆ウォン規模の投資プロジェクト進行される予定であるが、プロジェクトの遂行に支障がないよう政府が全面的にサポートを行う。7月中に先端産業特化団地を指定し、これらの団地で破格的な税制優遇措置を実施し、地方の先端産業への投資を促す。また、先端産業特化団地指定と合わせ、産業団地管理制度も改編し、新産業の入居手続きを簡素化する予定である。

更には、積極的な外交戦略により得られた米国・日本・中東等との協力関係を更に強化し、輸出・生産に支障にないよう、早期警報システムを導入する等、安定した供給ネットワークを構築していくとした。

韓国は貿易赤字を解消したとはいえ、まだ不安定な状況が続いている。今年1月に産業通商資源部が公開した「1月の輸出入動向」によれば、韓国の貿易赤字は126億9000万ドルと初めて三桁(億の桁)の数字を記録していた。また、貿易赤字が1年以上(2022年2月~2023年6月)継続したのは、IMF危機の直前(1995年1月~1997年5月)以来初めてだった。これに対し、韓国副総理は、「貿易赤字は、エネルギー輸入の増加、半導体輸出単価下落、新型コロナによる中国との経済活動の減少が原因」とコメントし、改善策を考案するとしていた。

そうした中、韓国は、高性能DDR(Double Data Rate)の需要拡大やメモリ減産効果の可視化などにより、下半期は輸出状況の改善が期待されている。過去最高の貿易支援策はじめ大統領のトップセールス外交戦略も展開するが、果たして輸出回復策が成功するか、今後の動向が注目される。

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