韓国、ベンチャー・スタートアップ企業に2兆ウォン支援―輸出博覧会をK-POPと融合も

2023年7月20日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国の中小ベンチャー企業部は7月11日、「中小企業育成総合計画2023~2025」を発表した。具体的な目標と支援策は、下記の表の通りである。

表 中小企業育成総合計画2023~2025の具体的な支援策
対象 目標 支援策
中小企業 中小企業が輸出・売上高において、韓国経済への貢献度50%以上を目指す 中小企業中心の輸出ドライブを促進
製造現場のデジタル化を促進
大・中小企業の同伴成長を促す
複合的な危機を克服できるよう先制的な支援措置を取る
創業・
ベンチャー企業
世界で活躍できるスタートアップ企業を育つ 創業・ベンチャー企業がグローバルな活躍ができるようにサポート
未来を先導するディープテク・新産業のスタートアップを育成
新ベンチャー・スタートアップモデルを作る
ベンチャー・スタートアップのスケールアップを支援
小規模事業者 革新起業家に成長できる環境を作る 成長段階別に起業家型の小規模事業者を育成
小規模事業者のデジタル転換を促す
民間の力を生かして商圏の活力を引き上げる
失敗しても再チャレンジできる社会環境を作る

韓国政府は、未来経済を先導できるディープテク・新産業のスタートアップを育成するため、5年間で1000社のベンチャー・スタートアップ企業に2兆ウォンを投資するとした。核心技術力の確保を目指して、民官共同事業化、R&D事業支援、グローバル市場進出サポート等を行う予定である。

特に、非メモリ半導体、バイオヘルス、先端モビリティ、エコ・エネルギー、ロボット、ビックデータ、人工知能(AI)、サイバーセキュリティ・ネットワーク、宇宙・航空、次世代原子力、量子技術の10大分野への民間投資を促進するため、2000億ウォン規模の「超格差ファンド」が新設される。スタートアップへの投資誘致と海外進出を支援する「グローバルファンド」は、今年8兆6千億ウォン規模に拡大される。

韓国政府は、グーグル、オラクル、エヌビディア等のグローバル企業と共同にスタートアップを育成する方法で、グローバル市場の進出を目指すと明かした。

今回の中小企業育成総合計画では、中小・ベンチャー企業の韓国経済への貢献度を50%以上に引き上げたいとの目標が盛り込まれた。現在、中小企業による輸出や売上高は、韓国全体輸出や売上高の40%程度である。50%以上という目標を実現するため、政府は現存の輸出インキュベーターをグローバルビジネスセンターに改編する。グローバルビジネスセンターでは、投資、金融、技術、プログラムに渡る幅広い分野で総合的な支援を行っていく予定である。

輸出促進のため、輸出博覧会をK-POPと融合し、「K-CON with K-BRAND」も開催する。また、現存の分散されている輸出企業指定制度を「グローバル強小企業+プロジェクト」に統合して、輸出に強い企業を発掘・支援する。

小規模事業者に対しても支援を強化していく。ライコーンプロジェクト(ライコーンとはユニコーン企業を目指すという意味)を通じ、コンテンツの開発力量が優れた人材を発掘・育成する。政府は、アイデアの発掘、創業・事業化支援、成長のための金融支援、商圏への支援など、様々な支援策を実施する予定である。また、小規模事業者法を改正し、起業家型小規模事業者の定義、支援方法、強力ネットワーク等に対し、法的支援根拠を提供する見込みである。

韓国政府は、新産業への規制については、国際レベルに足並みを揃えていくとし、韓国だけに存在する規制をリストアップし、全面的に見直しを行い、改善するか廃止する等の措置を取っていくとした。

文在寅・前政権では、中小ベンチャー企業への支援を強化するため、中小ベンチャー企業庁を中小ベンチャー企業部に格上げし、中小企業、スタートアップ企業、ユニコーン企業に対し、前例のないと言われる破格的な支援を行ってきた。そのおかげで、韓国では2020年前後に第2ベンチャーブームが起き、コロナ禍でも創業企業数とベンチャー企業への投資が過去最高値を更新した1

ただ、STARTUP ALLIANCEの「スタートアップトレンドレポート2022」アンケート調査によれば、政権交代や国際情勢の不安定さにより、2022年のスタートアップの全般の雰囲気は53.7点と低評価となった。回答者の約40.5%がスタートアップ市場は2023年にも大きな変化や進展がないと想定すると答え、37%が2023年は2022年よりも更に悪化すると想定すると回答した。今回の支援策は、再びベンチャーやスタートアップ市場にブームを巻き起こすことができるのか、引き続きフォローが必要である。

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