韓国、規制サンドボックス制度導入から3年半、その成果は?

2023年8月3日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国が規制サンドボックス制度を導入してから約3年半が経過した。同制度は、一定条件(期間・場所・規模に制限あり)が設けられるものの、事業者が新技術を用いて提供する新しい製品やサービスが、現行のすべて、または一部の規制を受けずに、優先的に市場で検証を受けられる制度である。端的にいえば「イノベーションの実験場所」であり、アイディアを有している事業者に自由にチャレンジできる機会を付与した制度である。

この制度の導入理由には、近年、急速な技術の発展と融合が行われ、既存の規制が新技術や新産業の変化をタイムリーに反映できないとの課題が生じたことがあり、政府は新技術や新産業について「先許可―後規制」を行うことにした。

韓国の規制サンドボックス制度は2019年1月に導入された。この間、どのような成果が見えてきたのか。国務調整室によると、まず、経済効果として、規制サンドボックス制度が導入されてから売上は6,000億ウォン増加し、1万4,000以上の雇用が創出された。2023年6月末までの投資誘致額は18兆ウォンに達した。

そして、ICT融合、産業融合、規制自由特区(規制から自由である地域)、イノベーション金融、スマートシティ、研究開発特区等6つの分野における承認件数は、1,000件(計1,010件)を突破した。政府は「承認件数1,000件突破は、規制サンドボックス制度が韓国の新産業における規制改革を代表するプラットフォームとして定着したとの証である」と評価した。

規制サンドボックス制度の運営を支えるため、2020年5月から申請処理窓口として、大韓商工会議所サンドボックス支援センターが立ち上がったが、ここでは計304件の申請を処理し、規制サンドボックス制度の定着に大きく貢献した。

今年度から、特例期間(規制を受けない期限、最大4年)が終了となる案件を増えることに備え、政府は、終了後も新しい製品やサービスがスムーズに市場で提供されるよう、規制サンドボックスタスクフォースを通じ、アフターフォローやケアを行う予定である。

では、韓国で規制サンドボックス制度の恩恵を受け、誕生した新技術やサービスをいくつか紹介しよう。

  • 諸金融機関が提供する預金情報を収集・比較し、自分にぴったりとあう商品を推薦してくれるプラットフォームが誕生した。
  • 町中を走りまわる自律走行の配達ロボットが誕生した。
  • 深夜でも祝日でも薬が買えるスマート一般医薬品販売機(自販機の呼び出しボタンを押すと待機していた医師が対応。症状等に従い薬を処方し、受取口から薬を受け取れる仕組み)が誕生した。
  • 違法ドローンをサーチして捕まえる、アンチドローンシステムが開発された。
  • 100%リサイクル可能なHDPE素材(高密度ポリエチレン)で製作した漁船が誕生し、エコ船舶の実現に貢献した。

政府は今後、更なる大胆な規制改革を通じ、より多くの成果を創出するとともに、特例期間中であるとしても、一日でも早く関連規制を改善できるよう、できる限りの措置を取っていきたいとした。

韓国は従来、新産業における各種規制が多く、技術力があるにもかかわらず市場進出に時間がかかるケースが多かった。上記で紹介したスマート一般医薬品販売機も既に10年前に関連技術が開発されたものの、長年諸規制に引っかかり苦しんでいたところ、2022年に規制サンドボックス制度のおかげで承認され、市民の利便性の向上に貢献した。

規制サンドボックス制度は、単に生活の利便性の向上だけでなく、莫大な経済効果創出や雇用拡大にも貢献しており、韓国ではニーズが益々高まっている。規制サンドボックス制度が企業のイノベーションと挑戦を支える頼もしい存在となれるか、引き続きその発展ぶりに注目していきたい。

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