韓国、2027年まで留学生30万人誘致を発表

2023年8月28日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー)

韓国の教育部は8月16日、「留学生教育競争力引き上げ方案」を公開し、2027年までに留学生30万人を誘致し、世界10大留学強国に挑戦したいと表明した。

韓国における2022年の留学生数は16万6,892名であり、2020年のユネスコの統計によると、世界における留学生占有率は、米、英、オーストラリア、ドイツ、カナダ、フランス順であり、韓国は中国や日本よりも低い13位にとどまった。

韓国政府は、これから大学―企業―地方自治体が連携して、留学生の誘致、学業、進路指導までフルサポートしていくと宣言した。留学生教育競争力引き上げ方案には、留学生の誘致、学業支援、就職と定着に分け、具体的な戦略が盛り込まれた。

1. 留学生の誘致

政府はまず、留学生誘致のボトルネックとなっている大学学士制度や教育国際化力量認証制度を全面改編し、地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の特徴を配慮した地域発展戦略と連携して、留学生誘致事業を開始していくとした。

大学―企業―地方自治体が連携して「海外人材誘致戦略担当チーム(TF)」を立ち上げ、地域の強みを生かした留学生の誘致戦略を考案していく。

また、海外の韓国教育院(Korean Education Center)1に留学生誘致センターを新設し、現地の留学ニーズをタイムリーに把握しつつ、ニーズにあった誘致戦略を講じる予定である。

優秀な研究人材を多く誘致するためには、海外研究者誘致事業への予算を拡大し、科学技術人材ファストトラック制度を活用し、科学技術分野の修士・博士ビザ取得、国内定着を促していく。

2. 留学生への学業支援

各地域に、韓国語センターを新・増設し、韓国語教育、韓国文化教育を強化する。留学生を対象とする大学在学中の現場学習機会、インターンシップチャンスを大幅に増やし、留学生が就職の前に、より多くの分野の仕事に触れる機会を提供する。また、いつでもどこでも韓国語を学べるよう、テキスト・授業提供のデジタル化を推進し、韓国能力試験(TOPIK)もCBT(Computer Based Testing)に改編するとした。

3. 留学生の就職サポート

人材の不足が深刻である分野、例えば、造船業、鋳造、金型、成型、焼成加工、溶接、熱加工、表面処理など、あらゆる製造業の材料等を加工供給する産業や中小企業への就職を促すため、学業から就職までの連携支援を強化する。中小企業等へ就職をする場合のメリット付与等も考案している。

海外人材誘致戦略担当チーム(TF)では、実用性の高い戦略を中心に、留学生の学業における悩みの解決から、進路相談、仕事紹介や連携に至るまで、幅広い分野でワンストップ支援ができるように組織編制を検討する。

教育部長官は、奨学金制度、学業や就職の情報は数多く存在するものの、留学を検討している予備の留学生や現役の留学生に十分に伝わっていなかったことを指摘しつつ、確実な情報提供に力を入れ、留学生関連事業が滞りなく推進できるよう、省庁間の報連相を強化するとした。また、留学生は、地域経済の活性化や大学のグローバル競争力強化に欠かせない存在だとし、優秀な留学生人材が韓国社会で早く定着できるよう、制度基盤を整えていく。

目標値である30万人は、現在の大学生数の約10%程度である。2022年の高等教育機関の在学者数は311万7,540人だった。教育部の「2023-2029小中高学生数の推進」によると、2023年の高校3年生の学生数は39万8,271人と、来年の大学定員の数より11万人も少ない。出産率低下に続く大学定員不足の危機に直面して韓国政府は、この局面の乗り越えられる鍵は、留学生にあると判断した。

韓国では、外国人労働者数は増加傾向にあるが、特に地方の大学は留学生の誘致に難航している。かつ、人文社会系の留学生が理系を上回っていることから、卒業後の定着率も低迷している。韓国政府は、「留学生教育競争力引き上げ方案」を制定する前に、5回にわけ、各地方で大学や地方自治体から幅広い意見聴取を行った。現場の声を多く含んだ方案であるだけに、今後の行方に期待が高まる。

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