宇宙専担機関として宇宙航空庁の設立・運営の基本方向を発表、年内設立へ 韓国政府

2023年9月7日

林 茂根 (YIM MOOKEUN)

林 茂根(YIM MOOKEUN):
(韓国研究財団 日本事務所 所長)

<略歴>

1976年韓国ソウル生まれ、韓国 延世大学校卒業、同大学院修了。
2006年韓国学術振興財団(KRF)入り。2009年韓国研究財団(NRF)に改組。
2020年11月から韓国研究財団 日本事務所長に就任。

韓国政府は尹錫悦政権の国政課題の1つであり、宇宙開発価値の増大・宇宙安保の重要性拡大・宇宙領域に対するグローバル競争力の激化など、宇宙経済時代の本格的到来に歩調を合わせて、昨年から宇宙航空庁の設立を論議してきた。

韓国航空宇宙研究院と韓国天文研究院という既存の研究機関と共に、年内に宇宙専担機関として宇宙航空庁の設立を推進中であり、韓国科学技術情報通信部(MSIT)は7月27日、宇宙航空庁の設立および運営に関する基本方向を発表した。

主な内容としては、まず宇宙航空分野のコントロールタワーである国家宇宙委員会(委員長:大統領)を置き、宇宙航空庁は委員会の運営を支援することで、関係部署間の政策調整機能を強化する計画だ。また宇宙航空政策を樹立し、研究開発・技術確保を主導し、産業育成、国際協力および人材養成などを遂行し、各部署で遂行する宇宙航空分野の汎部署政策、産業育成、国際協力などを、宇宙航空庁に移管し総括する。

宇宙航空庁の組織は、専門人材が働く任務組織と、これを支援する機関運営組織で構成されている。また、宇宙航空インフラの中で国家衛星の運営、宇宙環境の監視など公共・安保の性格が強い国家インフラは、宇宙航空庁所属機関として設立を検討中だ。

大学・研究機関は、既存の固有の研究を遂行しながらも、宇宙航空庁任務センターに指定され、宇宙航空関連国家特定任務を遂行する方針だ。特に航空宇宙研究院と天文研究院などの研究機関の場合、各機関で遂行中の機関固有の事業はそのまま遂行し、専門分野別の指定事業は宇宙航空庁任務センターに移管して遂行する。例えば、航空宇宙研究院の航空研究所、衛星研究所、発射体研究所、国家衛星情報活用支援センターと天文研究院の光学天文本部、電波天文本部、宇宙科学本部などは任務センターに指定される予定だ。

また、これまで分散していた宇宙関連R&Dは宇宙航空庁が総括する。初期先導的革新研究を通じて国家的能力の結集が必要な大型事業は宇宙航空庁が担当し、既存の部署および民間研究機関が競争優位にある機関別の固有領域事業は出捐を通じて産・学・研が遂行し、宇宙航空庁が管理を担当する。

今回の宇宙航空庁設立・運営の基本方向を詳しくみると、以下のとおりだ。

1. 韓国宇宙航空庁の設立方向

◇ 米航空宇宙局(NASA)をモデルに、宇宙航空専担組織として代表性とリーダーシップを確保し、任務達成のための専門的で柔軟な組織とネットワーク型運営体系を構築

  • (代表性)宇宙政策範囲の拡大(R&D→産業・外交・安保)とニュースペース時代への対応に向けた宇宙航空産業の育成、国際協力機能の拡大・強化
  • (コントロールタワー)国家宇宙委員会委員長を大統領に格上げ(←現在は国務総理)し、宇宙航空庁が事務局の機能を遂行して政策調整機能を強化
  • (専門性)専門家中心の組織として設計し、彼らがプロジェクトを企画・推進するなど専門性を主導的に発揮できる仕組みを導入
  • (柔軟性)プロジェクトによる自律的で柔軟な組織・人材運営で、最高の人材が持続的に流入できる革新的な運営体系を構築
  • (ネットワーク)国内研究機関と大学、 企業が保有する人材と資源を最大限活用できるネットワーク型運営体系を構築

<宇宙航空ガバナンス(案)>

2. 機関別役割(案)

◇ 大学・研究機関など機関別に強みをもつ分野に応じて役割を分担し、宇宙航空庁を中心にネットワーク型連携を通じてシナジー創出

  • (宇宙航空庁)宇宙航空政策を樹立し、研究開発・技術確保を主導して、産業育成、国際協力および人材養成などを遂行
    • 各部署で遂行する宇宙航空分野の汎部署政策、産業育成、国際協力などを宇宙航空庁に移管して総括し、関連事業を専担
    • 運営中の宇宙航空インフラのうち公共・安保の性格が強い国家インフラは、宇宙航空庁所属で設立検討
  • (大学・研究機関)既存の固有研究を遂行しながら宇宙航空庁の任務センターに指定し、宇宙航空関連国家の特定任務を遂行
    • 航宇研、天文研などの出捐研は既存の科学技術研究会所属を維持
    • NASA任務センターをモデルに任務に特化した専門組織に拡大
<機関間の役割分担(案)>
区分 従来 今後
政策 科学技術情報通信部 汎部署宇宙政策の研究・樹立、産業育成、国際協力など 宇宙航空庁

※ 宇宙航空汎部署政策、産業育成、国際協力などを総括
産業部 汎部署航空政策の樹立、産業育成、国際協力など
事業企画・執行・管理 科学技術情報通信部/産業部 宇宙航空分野の事業企画、予算確保、事業管理などの支援 宇宙航空庁

※ 事業企画・執行・管理直接遂行
韓国研究財団/産業技術評価管理院 宇宙航空分野の事業企画・管理・評価などの支援(韓国研究財団+産業技術評価管理院)
国家インフラ 国・公立研究院 国家衛星運営、宇宙環境監視、国家衛星航法など公共・安全保障の性格の大きい国家インフラ 宇宙航空庁所属機関化の検討
事業遂行 産・学・研 機関別に強みをもつ分野に対する固有事業及び受託事業の遂行 ■ 宇宙航空庁
(国家的能力結集の必要課題)
■ 任務センター
(出捐研、大学など)
■ その他、産・学・研
(機関別に強みをもつ分野)

3. 宇宙航空庁組織構成(案)

本庁は任務組織及び機関運営組織からなり、国の運営が必要なインフラは所属機関に編入

  • (本庁)科学技術情報通信部・産業部、関連専門機関の機能と人材を移管し、任務組織と機関運営組織に区分
  • (任務組織)政策+研究開発+ビジネス(産業創出)+国際協力などの機関固有のミッション遂行
    • ①(政策部門) 宇宙航空政策研究・樹立、人材養成、科学文化拡散、宇宙危険対応、国家宇宙委事務局の役割などを遂行
    • ②(技術部門) 発射体、人工衛星、宇宙科学・探査、先端航空の技術部門からなり研究開発等を遂行
    • ③(ビジネス部門) 宇宙航空産業育成政策研究・樹立、新ビジネス創出、多様なサービス研究開発など
    • ④(国際協力部門) 国際協力戦略研究、多者・両者協力、国際協力プロジェクトの発掘・管理及び遂行など
  • (機関運営組織)人事、監査、広報、企画調整、運営支援など機関運営に必要な行政支援の遂行
  • (所属機関)国家衛星運営、宇宙環境監視、国家衛星航法など公共・安保の性格が強い国家インフラは宇宙航空庁所属機関として設立検討
  • (任務センター)大学・研究機関など民間の専門性やインフラ活用が必要な分野及び組織を宇宙航空庁任務センターに指定・運営
    • 従来の機関固有事業などは機関が自主的に研究を行い、宇宙航空庁の主要任務達成のための専門分野別指定事業などを遂行
    • 「(仮称)任務センター指定基準及び支援等に関する規定*」を設け、宇宙航空庁の別途訓令により指定・運営
    • NASA任務センターをモデルに任務に特化した専門組織に継続拡大
<分野別任務センター指定候補(18のセンターの例)>
研究開発 人材養成 試験認証・インフラ
<航空宇宙研究院>
■ 航空研究所
※航空機、無人機、UAMなど
■ 衛星研究所
※ 衛星、搭載体など
■ 発射体研究所
※発射体、体系総合など
■ 国家衛星情報活用支援センター
※ 衛星情報活用促進等
<天文研究院>
■ 光学天文本部
※光学観測・研究等
■ 電波天文本部
※ 電波観測・研究等
■ 宇宙科学本部
※宇宙天文・探査など

<ETRI>
■ 衛星通信研究本部
※宇宙通信・インターネット等
<KAIST>
■ 人工衛星研究所
※宇宙開発人材、科学衛星

<大学>
■ 未来宇宙教育センター
(関連大学)
<産業技術試験院>
■ 宇宙部品試験センター
※ 宇宙部品試験・評価
■ 航空電子機器技術センター
※ 航空電子機器試験・評価

<航空宇宙研究院>
■ 羅老宇宙センター
※ 発射場の運営
※ 今後の所属機関化検討

<天文研究院>
■ 宇宙危険監視センター
※ 宇宙物体監視・対応
※ 今後の所属機関化検討

※ 必要に応じて任務センターを追加拡大予定

参考1 宇宙航空庁組織図(例)

参考2 宇宙航空庁本庁組織別主要機能(案)

分野 部門 主要機能
任務組織 発射体部門 ■ 発射体分野の任務設計研究*、任務保証研究**
*概念設計研究、先行・探索研究など
**安全、信頼性、試験評価、品質保証など政策・手続き研究および実現・監督など
■ 研究開発の遂行(必要に応じてPM組織、発射体システム体系総合など)
■ 発射許可・統制、事業企画・管理・評価など
人工衛星部門 ■ 人工衛星分野の任務設計研究*、任務保証研究**
*概念設計研究、先行・探索研究など
**安全、信頼性、試験評価、品質保証など政策・手続き研究および実現・監督など
■ 研究開発遂行(必要に応じてPM組織、衛星システム体系総合など)
■ 衛星許可・統制、事業企画・管理・評価など
宇宙科学/探査部門 ■ 宇宙科学/探査分野の任務設計研究*、任務保証研究**
*概念設計研究、先行・探索研究など
**安全、信頼性、試験評価、品質保証など政策・手続き研究および実現・監督など
■ 研究開発遂行(必要に応じてPM組織、探査システム体系総合、宇宙科学実験室など)
■ 事業企画・管理・評価等
先端航空部門 ■ 先端航空分野の任務設計研究*、任務保証研究**
*概念設計研究、先行・探索研究など
**安全、信頼性、試験評価、品質保証など政策・手続き研究および実現・監督など
■ 研究開発遂行(必要に応じてPM組織、先端航空システム体系総合など)
■ 事業企画・管理・評価等
宇宙航空政策部門 ■ 宇宙航空政策研究、基本計画
■ 政策関連法令の制定・改正に関する研究
■ 部署間協議・調整、国家宇宙委支援
■ 宇宙航空人材養成、科学文化の拡散
■ 宇宙物体、宇宙環境監視/災害対応、関連研究など
宇宙航空ビジネス部門 ■ 宇宙航空産業育成政策研究、基本計画
■ 産業育成関連法令の制定・改正に関する研究
■ 輸出統制、宇宙産業クラスター
■ 新しい宇宙サービスの発掘・事業化研究、スタートアップ支援
■ 金融/知的財産権コンサルティング、宇宙技術連携新商品開発など
宇宙航空国際協力部門 ■ 国際協力戦略の研究、多者・両者協力
■ 国際協力プロジェクトの発掘・管理及び遂行
機関運営組織 企画調整官 ■ 庁政策の樹立、調整
■ 予算/決算、国会、行政管理/組織
■ 情報化、情報セキュリティ等
■ 人事、監査、広報、運営支援、非常安全など

4. R&D 遂行(案)

宇宙航空庁が技術革新を導き、産・学・研が各自の能力および役割に合わせてR&Dを共に遂行する協力体系の構築

  • (直接遂行)宇宙航空庁は、初期先導的革新研究を通じて大型プログラムを設計し、プログラム関連安全・任務保証研究などを遂行
    • 国家的能力結集が必要な大型事業*は、宇宙航空庁のPMを中心に産・学・研と連携・協力を通じて共同研究開発
    * 国家安保に及ぼす影響力、民間能力、国家が直接推進する必要性などを総合的に考慮
  • (産・学・研遂行)民間研究機関が競争優位にある機関別の固有領域事業は、出捐を通じて産・学・研が遂行し宇宙航空庁が管理
    • 既存の部署・専門機関などで遂行する事業企画、予算確保、研究機関選定、協約および評価・管理などを宇宙航空庁で遂行

5. 事業移管(案)

◇ 宇宙航空庁所管事務に該当する部署、専門機関、出捐研等の事業は原則として宇宙航空庁に移管

  • (部署)科学技術情報通信部・産業部の宇宙航空分野政策、事業、産業育成、国際協力、人材養成などの事業移管
  • (専門機関)研究財団・産業技術評価管理院の宇宙航空分野事業企画・管理・評価支援業務等の機能移管
  • (出捐研)既存の組織・事業維持、ただし、宇宙航空庁R&D総括遂行必要事業および国家インフラ運営業務は移管検討
機関 区分 従来 今後
関係部署 科学技術情報通信部 宇宙航空分野の政策・事業・産業育成・国際協力・人材養成など
* 宇宙政策研究を含む
宇宙航空庁に移管
産業部 宇宙航空分野の政策・事業・産業育成・国際協力・人材養成など
国防部
(防衛事業庁)
軍事用政策・事業 維持 国防部(防衛事業庁)で継続推進
民軍兼用事業 宇宙航空庁と協業
国土部 航空安全分野事業
活用部署
(科学技術情報通信部、産業部、海水部など)
宇宙航空サービスの購入・活用、他の産業と関連性の高い事業など
研究管理
専門機関
韓国研究財団、産業技術評価管理院など 宇宙航空分野
事業企画・管理・評価業務等
宇宙航空庁に移管
国公立研究院 航宇研、天文研、ETRI、地質資源研、建設研、電波研など '23年基準継続事業 維持 既存の機関で継続推進

※ 国家的能力結集が必要な一部R&D移管を検討
'24年以後の新規事業 機関別競争優位の固有領域事業遂行

※ 宇宙航空庁遂行事業に共同参与
国家
インフラ
国家衛星運営、宇宙環境監視、国家衛星航法等
公共・安保の性格が強い国家インフラ
宇宙航空庁
所属機関として設立検討
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