朝鮮半島の地震特性と韓国の地震研究の動向―東日本大震災、朝鮮半島の地震環境に変化

2023年9月11日

洪台炅(Tae-Kyung Hong)

洪台炅(Tae-Kyung Hong):
(延世大学校地球システム科学科教授)

<略歴>

教育:
オーストラリア国立大学地球科学研究科博士課程(地震学)修了
ソウル大学校地質科学科地球物理学修士課程(地震学)修了
ソウル大学校地質科学科卒業

大学と海外留学:
教授(2014/09~現在)延世大学校地球システム科学科
特別研究員(2004/07~2006/08)米コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所
特別研究員(2003/07~2004/06)米カリフォルニア大学サンタクルーズ校

学内ポジション:
副学長(企画担当)延世大学校大学院(2020/8~2021/04)
所長 延世大学校地球システム科学研究所(2018/9~現在)

国際会議:
アジア・オセアニア地球科学会 地域諮問委員会(LAC)委員(2008)
国際地質学会議2024大会実行委員(2020年~現在)

歴史書に地震被害のリアルな記録

韓国政府の地震観測は、1978年に地震計が設置されて始まった。しかし、朝鮮半島の地震観測記録はこれより長い。1978年以前には朝鮮半島周辺国で観測された朝鮮半島地震の記録が残っている。朝鮮地震研究所の地震目録と中国地震局の地震目録には、朝鮮半島と沿岸海域で発生した地震が多数ある。1906年から1977年まで、規模がマグニチュード(以下、「M」と表記)3.0以上の地震だけでも310回余りに上る。

この地震の中には、1952年に平壌近郊で発生したM6.2江西地震もある。この江西地震は地震計で観測された朝鮮半島で発生した最大の地震だ。時期をさかのぼれば、さまざまな歴史書や文献に多くの地震被害記録が残っている。西暦2年から1904年まで2,100余りの地震被害記録が三国史記、高麗史、高麗史節要、朝鮮王朝実録、承政院日記などに残っている。この中には、M8以上と評価される地震被害記録もいくつかあり、特にソウルで発生した地震被害の記録もある。

歴史書に残る地震被害の記録は非常にリアルで詳しい。歴史記録物に残る地震被害記録の中には震度8の被害もある。朝鮮時代の地震被害の記録分析を通じて、ソウルと首都圏一帯でM5.3~6.2程度の地震が少なくとも6回発生したことが確認されている。1978年以後、韓国政府による地震観測が始まり、気象庁が地震観測の業務を担当し、地震記録を管理している。

北朝鮮の地下核実験受け、地震早期警報システムも運営

地震観測初期の地震計は、朝鮮半島東南部地域を中心に設置された。この地域は、梁山断層と呼ばれる、活動性が予想される断層帯があるところで、社会基盤施設と人口密度の高い産業都市が密集している地域だ。地震観測範囲はその後徐々に広がり、2000年代に入って全国的に密な観測網を作った。2023年現在、354ヵ所の地震計が運用中だ。平均5km前後の密な間隔で地震を観測している。地震観測は気象庁、韓国地質資源研究院などを中心に行われ、韓国電力技術、原子力安全技術院など複数の機関が地震計を設置している。2006年の北朝鮮による第1回地下核実験後からは、核実験の探知と分析にも地震波形資料が活用されている。2015年からは地震早期警報システムも運営中だ。

朝鮮半島の地震発生頻度はプレート境界部に比べて高くない。ほとんど震源の深さは4~16kmだ。1978年以後、これまでM5.0以上の地震は計10回発生している。大部分の地震は、それまで認知されていなかった地下断層で発生しており、内陸だけでなく、海域でも発生している。最大の地震は2016年、朝鮮半島東南部地域で発生したM5.8の慶州地震だ。特に、東海で発生する地震は、海岸線から60km以内の地域で集中して発生している。

その一方、内陸と西海で発生する地震は、全域にわたって等しく発生している。東海岸沿岸地域は、日本列島と朝鮮半島が分離した地溝帯が存在する地域だ。この地溝帯に地構造応力が累積して地震が発生する。この地溝帯は朝鮮半島の東海岸と平行に南北方向に発達しており、現在作用している東西方向の圧縮力によって逆断層地震を発生させている。西海では山東半島と朝鮮半島中部地域を東西に連結する地域を中心に正断層地震が発生している。これらの地震は、過去の朝鮮半島形成に関連した北中国プレートと南中国プレートの境界部で発生するものだ。このように、朝鮮半島の地震は過去の朝鮮半島地構造の歴史とつながっている。現在の朝鮮半島地震発生の特性を理解するためには、過去の朝鮮半島と周辺地域の地構造の歴史の理解が必要だ。

東日本大震災で朝鮮半島の地殻強度が低下

2011年の東日本大震災は、朝鮮半島の地震環境を大きく変化させた。東日本大震災は、朝鮮半島から1,200キロほど離れた日本海溝で発生した。この地震で朝鮮半島は3センチほど東西方向に伸びた。この結果、朝鮮半島の地殻強度が低下して、地震波伝播速度が3%減少し、朝鮮半島の地震発生頻度が大幅に増加した。東日本大震災以前は年20~30回程度だったM2以上の地震発生回数が、東日本大震災以後、年50~60回に上昇した。M5以上の中規模地震発生頻度は3.7倍増加した。また、下部地殻で発生する地震が増加し、群集型地震が大きく増えた。韓国では、2016年慶州地震と2017年浦項地震が続き、震災に対する憂慮も大きく高まった。

朝鮮半島で発生し得る最大地震を把握するためには、長い地震発生記録の分析が必要だ。このため、断層調査による地震発生履歴の分析が続いている。特に、慶州地震と浦項地震を契機に、地震誘発断層を探すための積極的な調査が行われている。行政安全部の主導で地表に現れた断層に対する調査が行われており、気象庁では地下断層調査を行っている。全国を圏域別に分けて詳細な調査を行っている。最近、首都圏と嶺南地域の地下断層調査と地震発生特性調査が終わった。今後、江原道、忠清道、全羅道、済州地域で調査が行われる計画だ。調査結果は、基盤施設の構築などに有用な情報として活用される予定だ。

東日本大震災で増加した地震発生頻度と中規模地震の増加は、朝鮮半島の地震災害と対策に対する国民の関心を大きく高めた。200平方メートル以上の2階以上の建物と高さ13メートル以上の建物すべてに耐震設計が義務付けられている。また、原子力発電所の耐震性能も最大地盤加速度0.2gから0.3gに上方修正された。原発の敷地から320キロメートル以内の活動性断層を地震災害評価に反映している。この耐震性能はイタリア、フランスの原発と類似した水準だ。

朝鮮半島の地震計、多様な研究に貢献

韓国の地震研究は、地震観測能力の向上とともに大きく発展している。朝鮮半島の地震特性研究や地震危険地図の製作だけでなく、核実験の探知と分析、天安艦沈没など多様な事件事故分析にも地震学が活用されている。社会の主要基盤施設と原子力発電所と放射性廃棄物処分場の敷地選定などにも、地震学的安定性評価作業が行われている。また、全世界の主要沈降帯や地球深部構造など、世界的に関心の高いテーマに対する研究も盛んに行われている。特に朝鮮半島に設置された多くの地震計は、多様な研究への拡張に貢献しており、地震学の範囲はますます広がっている。

図1 朝鮮半島地震分布
(出典:気象庁)

図2 年度別地震発生の推移
(出典:気象庁)

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