研究者たちはあるアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを使用すると、あらかじめ定められた経路を転がることのできる形状を設計できる。この研究はロボット工学に応用できる。(2023年10月31日公開)
ボールが坂を転がり落ちていくところを想像していただきたい。横滑りしなければまっすぐに進む。さて、12 面体がどのように転がるか想像していただきたい。はっきり言って、想像することは実に困難である。数学者たちは、複雑な形状物、例えばスフェリコン(2つの円錐形をねじり、まとめた構造)などの軌道を解明することに興味を持ち続けてきた。
Nature誌に掲載された研究では、韓国基礎科学研究所(KBSI)の数学者と物理学者のチームはこの難題を逆に考えた。規則性のない経路で傾斜を転がる物体の形状を想像できるだろうか?
チームはその形状を見つけ、それをトラジェクトイド(Trajectoids)と名付けた。論文の筆頭著者であるルオヨ・ドン (Ruoyo Dong) 氏は「走らせたい経路をそのまま転がることのできるあらゆる形状を設計できます」と述べた。
トラジェクトイドを作るためには、様相に関する規則がある。その1 つは、重心は回転中に大きく移動できないため、中心を重くし、表面に小さな凹凸を作る必要があることだ。傾斜が大きいと滑り運動の方が回転運動よりも強くなるため、傾斜が急すぎてはいけない。
最後に、経路は周期的でなければならない。トラジェクトイドがこの周期的な経路をたどると、元の方向に戻り、動きを持続的に繰り返すことができる。つまり、経路と接触するトラジェクトイドのすべての点をつなぎ合わせると、その表面に閉じたループができる。
チームは、一度だけの実行で経路の元の方向に戻るトラジェクトイドはまれであることが分かった。ただし、経路を少しだけ修正することで、チームが望むトラジェクトイドとなった。
「繰り返す経路に 2 つの周期があれば、修正すべき形状は必ず見つかります」と ドン氏は語る。
チームはこのような条件を頭に入れて、所定の経路を移動するトラジェクトイドを設計するアルゴリズムを開発した。理論は単純である。まず球体を利用する経路を作り、その経路を小さな区画に分割する。必要であれば、各区画での接触点の形状をわずかに整えて次の区画に移動できるようにする。すべての区画でこの工程を繰り返すと、望む経路を移動するトラジェクトイドを作ることができる。
チームはアルゴリズムの検証実験を行うために、トラジェクトイドの3Dプリントを作った。トラジェクトイド形状の内側に重い玉軸受を挿入して、重心を固定した。経路の区間が短く上り坂になる場合でも、トラジェクトイドは定められた経路を移動した。
この研究のきっかけは純粋な数学的好奇心ではあるが、他の分野にも応用可能である。たとえば、理論物理学では、電子にはトラジェクトイドでモデル化できるスピン成分がある。経路に沿ったトラジェクトイドの向きの変化は、電子の角度の経時変化の代用となりうる。
ソフトロボット工学では、トラジェクトイドがさらに実用的に応用できる。スフェリコンを利用して単純な経路を移動するロボットはすでに存在している。この研究から、複雑性の高い経路をたどるロボットを開発できるかもしれない。トラジェクトイドの幾何学的要素を組み入れた形状変化ロボットが生まれるのである。