韓国、合成生物学の核心技術開発に支援を強化、7年後に米国と同レベル目指す

2023年11月14日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー)

韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は10月30日、「合成生物学の核心技術開発および拡散戦略」を発表した。これは、昨年12月に発表した「国家合成生物学育成戦略」に基づく具体的な実施戦略である。

MSITは、「2030年石油基盤製造産業の30%をバイオに転換する」をビジョンに、核心技術へのR&D支援、合成生物学を活用する先導プロジェクトの推進、バイオファウンドリーなどのインフラ造成、修士・博士レベルの高級人材の育成、国際協力強化を細部戦略として提示した。目標としては、2030年にアメリカと同じ程度の技術レベルになることだ。

専門家への意見聴取を通じて、韓国はバイオ分子設計、回路設計、DNA/RNA政策と制御、バイオシステム製作、デジタル基盤の自動化および高速化、スケールアップを6大分野と選定し、傘下の17の技術、特に、韓国が技術的な強みを見せている細胞の改良と代謝最適化技術にR&D支援を強化するとした。これらの革新技術については2年に一度、技術目標を設定・修正し、より良いアウトプットに向け、補完しながら戦略的に進めていくとした。バイオ分子設計、回路設計は、目指している機能を迅速・正確に設計でき、DNA/RNA政策と制御、バイオシステム製作は、設計によって駆動する人工細胞の制作および編集を可能にし、デジタル基盤の自動化及び高速化、スケールアップは価値の創出を最大化にする、いずれも重要なプロセスである。

そして、グローバル難題を解決し、新市場を開拓するため、医療分野の革新、汚染物質の分解と代替、高付加素材の生産で9つの先導プロジェクトを実施する予定とした。

また、合成生物学の核心インフラとして知られているバイオファウンドリーを構築する予定である。バイオファウンドリーは、人工細胞の設計から製作、テストまでの全プロセスを自動化・高速化するインフラでバイオ基盤製造の生産性を画期的に向上できる重要な要素である。

アメリカ、イギリス等が合成生物学を技術的にリードしていることから、MSITは、アメリカやイギリスの研究機関との共同研究にも惜しみのない支援を行う予定と明かした。第4次産業革命時代を迎え、融合人材、複合人材の育成に注力してきた韓国は、「バイオ×AI」、「バイオ×工学」の人材を育成するため、新たな教育プログラム・カリキュラムの開発に取り組んでいると明らかにした。

戦略発表の日、MSITのチョ・ソンギョン第1次官は、GSカルテックス技術研究所を訪問し、バイオ生物学を活用して微生物を開発し、大量生産するプロセスを参観するとともに、「合成生物学の核心技術開発及び拡散戦略」に対する現場のフィードバックにも耳を傾けた。

チョ第1次官は、「全世界が合成生物学に注目している。その理由は合成生物学がバイオ製造の核心技術であり、医療、エネルギー、化学、農業等の多様な分野で新しい市場の創出が可能であり、人類が悩み続けている気候変動、資源の枯渇を解決できる有効な方法だからである。優秀な技術が、産業現場で広がり定着できるよう、政府は惜しみのない支援をこれからも行っていくことを約束する」とコメントした。

近く、生命工学総合政策審議会が開催される予定であり、より詳しい内容が提示される可能性もあると見られる。合成生物学は産業価値が高い技術として認められており、既に多くのグローバル企業が合成生物学技術の開発・活用に取り組んでいる。韓国でも合成生物学を未来の産業と人類のライフを変える学問と高く評価し、新素材の開発等で、合成生物学の技術が導入されている。7年をかけてアメリカと肩を並べたいという目標は決してハードルが低いものではない。韓国は、政府が示している自信にふさわしい研究成果を世界に披露することができるのか、これからの動きに注目していきたい。

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