韓国、4種の特区運営を通じ、地方イノベーション時代を開く

2023年11月20日 松田 侑奈(JSTアジア太平洋総合研究センターフェロー)

地域格差問題、首都圏に人材が集中する問題は、韓国のみならず、日本や中国でも深刻と言われているが、韓国政府は、もはや地方が消滅の危機を迎えているとし、地方のイノベーションのため、新たな対策を公開した。11月2日に開催された「第1次地方時代総合計画(2023~2027)」では、地方でも首都圏に負けないレベルの教育機会、就職機会を付与・創出し、地方の時代を開きたいと強調した。

今回の総合計画には、いくつかの地方都市を、機会発展特区、教育自由特区、都心融合特区、文化特区に指定し、破格的な支援を行うことが盛り込まれた。

① 機会発展特区

これは、地方には良い就職先がないという認識を覆すための取り組みで、企業に各種インセンティブを付与することで、大規模投資を誘致するものである。

企業が不動産を処分して、特区に移転する場合、譲渡所得税を操延する。また、創業・新設事業施設に対する所得税・法人税を5年間免除し、その後の2年間も50%免除となる。特区に移転して新規に取得した不動産に対しては取得税を全額免除し、財産税も5年間全免、6~7年目は50%を免除する。

さらに、この機会発展特区では、企業の開発負担金を100%減免し、同族経営の相続控除事後管理要件も大幅に緩和している。また、「機会発展特区ファンド」も設立しているが、10年以上投資を行う場合、利息・配当金所得に対する税金を優遇し、より多くの地方投資促進補助金も受け取れるようになる。なお、地方投資における各種規制は、地方政府の権限で緩和・解除ができるようになった。

② 教育自由特区

教育自由特区は、地方でも首都圏並みの良質な教育を受けられるようにし、地方で生まれ育った人材が地方に定着して、地方に貢献できるようにしたい趣旨で導入されている。政府は、教育自由特区が活性化すれば、地方の出産率も引き上がると予測している。

子育てしやすい環境を作るため、地方政府は、まず保育サービスを強化するとした。子育て家庭の多様なニーズに合わせ、柔軟性の高い子育て支援サービス、アフタースクールサービス(学童保育)を提供し、保育施設の不足等で悩む事例をなくすとした。また、小中高校の教育レベルを引き上げるため、デジタル授業イノベーションを通じ教育の質を向上するとした。小中高校でレベルの高い教育が受けられるのであれば、地方離れの傾向も自然に緩和されるだろうというのが政府の見解である。

地方の高校と大学を連携するプログラムも多く増やし、大学における地方人材奨学金の種類と金額、大学入試における地方人材受験枠を増やし、人材の流失を防ぐ取組も考案している。

地方大学への財政支援を強化し、競争力のある大学を集中的に育成することで、地方の競争力を引き上げようとしている。政府は、未就業児から大学に至るまでの地方の教育レベルの向上に注力し、地方政府―地方大学―地方企業の連携で、大学生の就職支援等も積極的に行う方針である。

③ 都心融合特区

都心融合特区は、若手と企業が、地方に定着するにあたって、懸念される要素を排除する目的で生まれたものである。言い換えれば、シリコンバレーのように仕事場(産業)、ライフ(居住地)、エンターテインメント(商業と文化)が集約された地域を作りたいとの狙いである。特区事業は今まで中央政府が主導してきたが、都心融合特区は地方政府がその方向性から育成方案まで自ら設計している。釜山、大邱、光州、大田、蔚山などの広域自治体に特区が生まれる予定である。

④ 文化特区

文化特区は、歴史、伝統、芸術等、地方の特色を十分に生かし、それを各種産業や観光業の発展に繋げていきたいとの狙いが込められている。政府は13の都市を選定し、3年間それぞれ200億ウォンを支援する方針を示した。また、「ローカル100」を選定し、地方の有形・無形文化遺産の宣伝活動に取り組んでいる。ここには地方のパワースポット58カ所、文化コンテンツ40個、文化人2人が含まれている。

地方時代委員会のウ・ドンギ委員長は、「4つの特区がそれぞれ役割を果たして、相乗効果を発揮してほしい。教育自由特区で地方大学の競争力が引き上げれば、多くの若手が地方に流入すると思う。それから機会発展特区や都心融合特区で多くの仕事が創出すれば、地方に定着したい若手も多く増えるはずである」とコメントした。

9月に行われた「地方時代宣告式」で尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、「地方の競争力が国家の競争力であり、地方の活性化に向け、税制改正、定住促進等を大胆に進めていく」と述べている。

地方では、特区の運営以外にも様々な試みがなされている。例えば、地方のイノベーションや先端産業の育成に向け、ソフトウェア中心大学を拡大し、デジタル転換を主導できる企業の育成にも積極的に取り組んでいる。また、半導体、ディスプレイ、二次電池、バイオ、未来自動車、ロボット等の6大産業にも550兆ウォンを投資し、地方のイノベーションや科学技術の発展を促している。地方イノベーションは、地域格差の解消や更なる発展のために絶対的な必要な措置であるが、地方の活性化への道のりは平坦ではないため、有効な戦略に加え、一時的な勢いで終わらない長期的な取り組みが必要である。

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