【現地専門家インタビュー】韓国大学の創業人材育成①~二次電池に強い蔚山科学技術院篇㊤

2023年12月25日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

※【現地専門家インタビュー】韓国大学の創業人材育成シリーズは、韓国の大学発創業、創業人材育成実態について明らかにするため現地調査を行い、専門家のインタビュー内容をベースに作成されたものである。

韓国には科学技術特化大学として、韓国科学技術院(KAIST)、光州科学技術院(GIST)、大邱慶北科学技術院(DGIST)、蔚山科学技術院(UNIST)、浦項工科大学(POSTECH)がある。これらの大学は研究中心大学であり、韓国の科学技術の発展及び理工系の教育を先導している。

アジア・太平洋総合研究センターではこのほど、韓国の科学技術特化大学とファンディングエイジェンシーである韓国研究財団(NRF)を訪れ、大学での創業人材育成についてインタビュー調査を行った。1回目は蔚山科学技術院(UNIST)を㊤と㊦で紹介する。

イ・ヒョンウク教授へのインタビュー

蔚山科学技術院(UNIST)ではエネルギー化学工学のイ・ヒョンウク教授にインタビューした。イ教授は2019~2021年Clarivate Analyticsにより、世界上位1%の研究者と評価された優秀な研究者だ。二次電池及びリアルタイムでもイメージング分析を利用したバッテリー内部観察研究を研究テーマにし、バッテリー充放電の際に寿命が短縮される原因と物質の変化について研究している。発表した論文は135本、特許出願数は28件に達している。

イ・ヒョンウク教授

イ教授へのインタビューは以下の通り。

Q1:UNISTが二次電池研究に強い秘訣は?

イ教授:2009年建校同時に、UNISTはバッテリー分野を研究する教授を9人採用した。他大学は通常バッテリー分野の教授が1~2人しかいないので、破格的な採用といえる。バッテリー分野の研究人材を多く確保したから、研究力で最初から他大学と差がついた。それから、インフラが非常に優れており、このビルので、授業―実験―製作が全部できるので、教員に対しても、学生に対してもいい研究環境と確信する。

Q2:バッテリー学科は人気なのか?

イ教授:バッテリー研究では修士課程で終わる契約学科と、修士・博士統合の研究人材育成コースがあるけど、いずれも人気である。特に契約学科は就職率100%で、全員、大企業に就職している。今UNISTと契約を締結している企業は、SK、POSCO、サムソンSDIがある。契約学科とは、当院と企業が契約を締結し、当院はその企業が希望する実務人材を育成し、卒業したら、当該企業に就職し、数年間働く制度である。契約期間中の学費は企業が負担する。

Q3:創業をする教員や学生は多いのか?

イ教授:多い。教員の3割程度既には創業している。かつては学生や教員の創業が失敗のリスクも大きいし、本業に専念していないイメージで、ネガティブな印象をもっている人が多かったが、今は真逆で、むしろ大学では大歓迎している。何よりUNISTは大学の総長が創業を積極的に進めているので、教員も学生も創業に対する抵抗がなく、学校、自治体、国の支援が豊かであるから、失敗のリスクもあまり感じない。

Q4:創業を希望する教員、学生はどのような支援を受けられるのか?

イ教授:「実験室特化型創業先導大学」という事業の支援をUNISTは2021年から年間10億ウォン程度で受けている。2年間で10の優秀な実験室(LAB)創業を実現でき、その他優秀な予備創業者を発掘・育成する「イノポリスキャンパス事業」、研究成果の事業かを支える「公共技術基盤市場連携創業探索支援事業」も実施しており、アイデアや技術をもっている教員や学生をフルサポートしている。

実験、研究への支援から、創業に関わる基礎教育、法務、税務、財務関係の支援、専門家の指導、成功ノウハウの勉強、事務所探しから投資や人材の誘致まで、当院が全部サポートするので、創業から企業がある程度定着するまで、自己投資ゼロで、行うことができる。

また2023年からは蔚山市が「二次電池強小特区」に選定されたので、二次電池分野で創業するなら、国や自治体からの支援もあるし、蔚山市には二次電池特化団地も別途あるので、団地にある産業は更なる支援を受けられる。

当院には、「創業休学」制度があり、創業する学生はその期間中に休学し、創業に専念することができる。創業休学は最大2年である。一般休学(最大2年)と併用可能なので、最大4年まで休学できる。教員も創業を希望する場合、担当するコマや事務作業が大幅に減るので助かる。

Q5:本人も産学連携に関わっているのか?

イ教授:関わっている。企業の技術顧問、技術移転に関する助言を行うことで、技術面での悩みや弱み解決をサポートしている。私に創業を進める教員も多いが、今は研究にもう少し専念したく、まだそこまで踏みこんでいないが、企業のサポートは継続的に行っている。今は、3つの企業を長期支援している。それ以上はエフォートがかかりすぎて、断っている。

蔚山科学技術院(UNIST)はどんな大学?

次にUNISTについて説明する。UNISTは、2009年に商業都市蔚山市で開校した、韓国初の法人化国立大学であり、設立当時は蔚山科学技術大学という名前であった。2015年から科学技術院と改名し、今は4大科学技術院の1つとして知られている。

UNISTは、優秀な教員(研究者)を多く確保していることで有名であるが、開校当時、UNIST総長は、アメリカの名門大学を訪問し、UNISTのビジョンを説明するとともにUNISTで共に働くことを呼びかけた。そのおかげで、開校当時UNISTは47人の教員を誘致でき、教授平均年齢38.6歳(韓国で最も若い)と、有能で若い人材を多く確保できた。

第1期の新入生も、韓国でTOP5%の優秀な学生で構成され、オール英語授業を実施し、全員が奨学生であった。学生達への豊かな支援(1人当たりの奨学金は2022年基準6千51万ウォン)や英語授業の義務化は今も続いている。UNISTは、MSITの支援以外も蔚山市自治体からの支援、蔚山市にある地域企業の支援を受け、世界トップレベルのインフラや最先端研究設備を取り揃えている。

米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学とともに、UNISTは二次電池分野で世界トップ3大学であり、TIMESが公開した「THE Young University Rankings 2023」では韓国国内1位、世界10位と評価された。 2022年に実施したファンディングプロジェクトは1145件、研究費は1852億ウォン、特許出願件数は633件、SCI論文数は1409件、教員1人当たりのSCI論文数は4.53編と優秀な研究実績を有している。

世界最大の二次電池研究センター

UNISTのキャンパスは70,044㎡に及ぶが、ナノ素材製品を量産できるレベルのスーパークリーンルームや100人以上が同時にクラウド基盤のパソコンを使い研究ができるランニングコモンズを有している。

また、二次電池の実用化研究に向け、8,800㎡の土地に地下1階、地上5階の二次電池研究センターを2016年に設立した。これは、二次電池研究のために作られた大学の研究センターで世界最大規模を誇る。ここでは、スマートフォンやIT機器に使われる小型電池から、電気自動車、エネルギー貯蔵装置に使われる中大型電池の研究まで、幅広い二次電池研究が行われている。

UNISTの二次電池研究センター

科学技術特化大学とは

最後に韓国の科学技術特化大学について説明する。冒頭で紹介したように韓国の科学技術特化大学には、韓国科学技術院(KAIST)、光州科学技術院(GIST)、大邱慶北科学技術院(DGIST)、蔚山科学技術院(UNIST)、浦項工科大学(POSTECH)がある。

4つの科学技術院は、科学技術情報通信部(MSIT)の管轄下にある。これは教育部管轄下にある総合大学と大きく異なる点である。POSTECHは、大企業であるポスコ(POSCO)の支援を受け設立された。これらの科学技術特化大学は、学生の定員数が少なく、財政支援も分厚いため、1人当たりの奨学金が豊かである。

これらの研究中心大学は、近年「研究+創業」中心大学にシフトしている。韓国政府は、2018年から「実験室特化型創業先導大学」事業を開始しており、教員や学生による創業、大学発ベンチャーを大いに支援している。2020年前後に韓国は第二次ベンチャーブームを迎えているが、大学でも創業事業が非常に盛んでおり、Global Entrepreneurship Monitor社による「起業家精神に関する意識調査」で、韓国は、「創業失敗における恐怖のない国」1位と評価された。

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