韓国の研究成果とイノベーション力に対するOECDの評価

2024年3月18日 松田 侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

経済協力開発機構(OECD)が「OECD Reviews of Innovation Policy: Korea 2023」を公開し、韓国の科学技術イノベーションや研究成果について評価した。当該報告書は、分断国家という特殊性、グリーンへの移行、少子高齢化、デジタル社会への転換等、様々な課題に直面して韓国では、経済発展モデルや国家イノベーションシステムの強みと限界が日々明らかになっており、これらの課題を乗り越えるには、STI政策が極めて重要であるとした。

韓国がSTI分野でのポテンシャルを生かし、グローバルイノベーションリーダーになるには、現状と課題を正確に認識する必要があり、本稿では、報告書の内容をまとめる形でいくつかの観点を提示する。

一、研究への投資、成果:積極的に投資を行っているが、研究成果は楽観できない

2021年を基準とした場合、GDP対GOVERD(政府の研究開発への支出)で韓国は世界トップレベルに立っており、HERD(高等教育機関の研究機関への支出)もOECDの平均レベルに達している。韓国はR&D投資にとても積極的な国だといえる。

ただ、上位10%の被引用論文の割合(科学分野)はOECD国家のうち下位30%に入り、産学連携に関わる共同論文も減少傾向にある(2005年7%⇒2019年4.5%)。

特許での国際協力(外国人居住者が保有している特許、外国人共同発明者と共に保有している特許の割合等)や他国との共同発明もOECDの平均よりはるかに低い。

大企業の強みと合致する化学工学、材料工学、工学、化学、エネルギー等の分野の研究成果(主に論文)は優れているが、基礎科学分野、特に数学、物理学、天文学では優れた論文や専門性が強い論文が見当たらない。

二、留学生:数は増加しているが、国内の学生との融合に難あり

2019年の時点で韓国に来ている留学生の数は、2001年より10倍増加しており、規模は大きくなってきた。ただ、多くは中国とベトナムからの学生であり、多様性があるとはいいがたい。

韓国は留学生の誘致に力を入れ、大学でも数多くの交換留学プログラム(キャンパスアジア、AIMS and ASEM-DUO等)を用意している。そのおかげで留学生、特に東アジアからの留学生が増えてきたが、言語力(韓国語)、韓国社会や文化への理解が乏しく、韓国人との融合が上手くいかない場合が多い。韓国人学生の場合、学業、就職への大きなプレッシャーから、外国人学生への関心がなく、「共に」「相互連携」という部分が他国に比べ弱い。

「共同」という観点からついでに言うと、国際共同論文もOECD諸国に比べ少ない傾向にある。研究者1人あたりの国際共同論文数も少ないほうであるが、GDP対HERDの割合が韓国と似ているフランスのおよそ半分程度である。

留学人気国と定着するには、韓国語教育への注力、経済支援、韓国文化への理解を高める工夫が必要である。

三、大学:ランキングは上がっているが、質が上がっているとは言い難し

TIMESやQS世界大学ランキングTOP200に入る韓国の大学の数は増加傾向にあり十分に評価できる。ここ10年間、ソウル大学やKAISTはトップ100に定着しており、TOP200に入る大学も大きな変動がない。人口対上位ランク大学の数はアメリカと同レベルで、フランスと比べた場合2倍多い数字であり、大学の国際競争力は高いと言える。

ただ、研究力や教育の質を主な評価指標とするCWTS Leidenランキングや上海交通大学ランキングでは、シンガポール、イギリス、スイスよりも低い評価となっている。即ち、韓国の大学は資金支援、優秀人材誘致では高い評価を受けているが、研究の質やイノベーションでは遅れと取っていることを示唆する。

また、大学間の格差が大きいため、研究力全体の評価が下がっている。豊かな研究支援を受けている一部の大学や所属教員の生産性は非常に高い。例えば、科学技術特化大学は世界中でも注目できるほどの、多くの研究成果を産出している。ただ、それ以外の大学の成果は比較的に低いレベルである。そのため、全体の研究の質はまだ高いレベルとは言い難い。アメリカやヨーロッパ、中国、イスラエル、シンガポールの大学の場合、上位20%ぐらいの大学は大差のない研究力を見せており、質の安定さが伺える。

四、大学生:少子化により数は減っているが、レベルは高い

2021年の大学生の数は320万人と2013年に比べ50万人も減少している。減少する学生の数により、財政的なプレッシャーを感じる大学が増えており、特に地方の大学は苦しい日々を送っている。「INソウル大学(ソウルに所在している4年制総合大学)」1や大企業への就職を希望する学生は相変わらず多く、学歴や就職競争は依然として高い。

学歴重視の国家という側面もあり、大学生の質はOECD国家のうちとても高い方である。2019年の場合、大学教育を受けた25~34歳の割合は70%近くとOECD国家の中で最も高い国となった。また大学教育を受けた25~34歳の割合と55~64歳の割合の差が最も大きく、ここ30年、教育のレベルが大幅に上がったことを示唆する。

大学卒業生のうち、S&T分野の学生は約3割を占めており、他国に比べ多い方である。PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の調査によれば、韓国の大学生の成績は優秀なほうで、科学分野で最上位圏にランクされる学生も約12%と多い国である。

ただ、優秀な若手が多い反面、中年の能力は低い傾向を見せている。OECDのPIAAC(国際成人力調査)の調査によれば、ICTのコアテストの不合格率は韓国がOECD加盟国のうち2番目に高く、パソコンを使いこなせない成人のうち、特に45~55歳の割合が大きい。シニア層へのデジタル教育に注力しているせいか、ICTのコアテストの合格率は55~65歳が45~54歳より高い結果となった。

中年層は産業のコア人材層であるため、中年の力量不足は、企業にとって大きな悩みであり、特に中小企業は常に人材不足で悩んでいる。

韓国は、課題を多く抱えているが、「国際化」におけるポテンシャルはとても高い国であり、これを十二分に活用すれば、研究システムのイノベーションに大きく役に立つはずである。積極的に受け入れている留学生や尹政権が積極的に推進している国際共同研究で躍進を見せれば、企業のみならず、国全体の研究開発で成長ぶりを期待できるだろう。

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