2024年4月24日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
韓国政府が高度人材不足の危機感が高まっているなかで、理工系大学院生の育成にテコ入れ策を打ち出している。韓国政府は4月、理工系修士・博士課程の大学院生を対象とする「大学院大統領科学奨学生」を選抜したと公表した。
韓国では2000年代から少子化が急速に進展し、2023年の出生率(合計特殊出生率)は0.72人で、8年連続過去最低となった。ただし、高学歴社会の韓国では2002年から2021年までの過去20年間の大学院生数は増加してきた(図参照)。とりわけ、理工系博士課程学生数は同期間21,421人から41,100人へ2倍以上増加した。
しかし少子化に歯止めがかからない状況のなかで、韓国科学技術の担い手である理工系大学院生の確保は喫緊の課題となっている。
韓国科学技術政策研究院は、2000年に入って深刻化している少子化の影響で、この時期に生まれた子たちが大学を卒業し始める2025年前後に、大学院進学対象者数が顕著に減少し、早急な対策が必要と指摘した。
図 韓国の18~35歳の学齢人口及び系列別大学生数の推移
(出典:韓国科学技術政策研究院)
これに加えて、1991年以来となる国家研究開発(R&D)予算の削減とそれに伴う学生研究員の削減、医学部定員2,000人増員など、一連の政府発表は理工系大学院進学低下につながると指摘されている。
これを受けて尹大統領は2月に開催された「民生討論会」で理工系大学院生の自負心を高めるとともに、世界トップレベルの研究人材育成を後押しするために、既存学部生を対象とした大統領科学奨学金の大学院への拡大や、理工系大学院生に生活費を支援する「研究生活奨学金」の早期導入を約束した。
今回大学院大統領科学奨学生には修士課程50人、博士課程70人の合計120人が選抜された。2,980人が応募し、およその競争倍率は25倍を記録したという。書類選考、深層面接を経て自然科学分野19人、生命科学24人、工学30人、ICT・融合研究47人が選抜された。給付型奨学金であり、修士課程学生には毎月150万ウォンずつ最大4学期3,600万ウォン、博士課程学生には毎月200万ウォンずつ最大8学期9,600万ウォンが支給される。
一方、韓国型スタイペンド(給付型奨学金;Stipend)として検討されているのが「研究生活奨学金」である。国家R&Dに参加する理工系大学院生が生活費の負担から解消され、研究に専念できるように給付型奨学金を支給することである。
韓国政府の手厚い給付型奨学金が理工系大学院進学への誘引力となるのか注目される。