【AsianScientist】歯周病は糖尿病の前兆かもしれない

歯周病と糖尿病の相互作用が研究から示された。この研究は「レジスチン」分子を標的にして歯周病患者を治療することで糖尿病のリスクを軽減できると示唆している。(2024年5月10日公開)

2 型糖尿病 (DM) は複雑な代謝障害であり、血糖値が高いという特徴を持つ。世界保健機関 (WHO) によると、過去30年間の2 型糖尿病の有病率は、所得水準に関係なく、すべての国で大きく増加した。WHO は、糖尿病患者の95%以上が2型糖尿病であると推定している。以前は主に成人の病気だったが、現在、2型糖尿病と診断される子供は増えている。世界中の成人の約19%が重度の歯周病を患っており、その数は世界中で合計10億人を超えている。

DM 患者で歯周炎に苦しんでいる者は珍しくない。歯周炎は歯肉や歯を支える骨にダメージを与え、歯の喪失につながる重度の歯肉感染症である。しかし、これら 2 つの疾患が影響しあう複雑な性質は、完全には理解されていなかった。

今回、韓国の研究者チームが新しい研究を行い、歯周炎と糖尿病が免疫系の全体と細胞で関連していることを初めて説明した。この研究を行ったのは韓国の釜山にある釜山国立大学校 (PNU) の研究者チームであり、Clinical and Translational Medicine誌に発表された。

歯周炎は糖尿病患者によく見られる症状であるが、歯周炎が健康に及ぼす影響や、2 型糖尿病との相互作用については十分に解明されていなかった。今までの研究は、歯肉内での免疫系の反応にのみ注目しており、体全体にどのような影響があるかという全体像を見ていなかった。

この 2 つの疾患の関係を理解するために、チームは健康な11人、歯周病はあるが糖尿病ではない (PD) 10人、歯周病と糖尿病の両方を持つ(PDDM) 6人で構成される混合グループから血球細胞を採取した。

次に、最先端の単一細胞 RNA シーケンス技術を使用して血球細胞を分析した。この技術は、組織や生物内のさまざまな細胞タイプとその機能を特定するのに役立つ。その後、血液中の特定の種類の免疫細胞を調べ、細胞内・細胞間の観点からグループ間の違いを比較したところ、チームはPD グループと PDDM グループの両方で特定の細胞の炎症性が高まっていることを発見した。

レジスチンは「インスリンに対する抵抗性」を表す。炎症発生で大きな役割を果たす分子であり、糖尿病その他の慢性炎症状態に関連している。 糖尿病患者では、レジスチンを持つ細胞が多く見られた。これは、歯周病 (PD) グループと糖尿病 (PDDM) グループの両方に当てはまった。血中のレジスチン濃度は健康な者よりもPDグループおよびPDDMグループの両方で高く、これはレジスチン濃度と血流には相互作用があることを意味する。

この研究から、レジスチン経路がPDグループとPDDMグループの両方で、特に古典的単球と呼ばれる特定の種類の白血球(免疫系の必須部分)で活性が高いことも分かった。この発見は、歯周病と糖尿病の関係に影響を与える共通の経路を示唆するものであるため、意義がある。他の疾患を持たない歯周病患者の血液中にレジスチンが存在していることは、炎症におけるレジスチンの役割と、歯周病患者の糖尿病リスクを低下させる治療標的としての可能性を示すものである。

研究結果では歯周病と糖尿病の両方の患者において免疫系に有意な変化が見られ、歯周病が糖尿病に先行する可能性が示唆された。同様に、歯周病を持つが他の病気はない患者の血液中にレジスチンが検出されたことは、レジスチンがそのような患者の糖尿病リスクを軽減させる治療の標的となる可能性を表している。

「私たちの研究は、歯周病と糖尿病という2つの疾患の複雑な相互作用に関する理解を一変させ、これらの疾患が全身に及ぼす影響に光を当て、的を絞った介入の可能性を約束します」と釜山国立大学校 (PNU) 医学部解剖学部のユン・ハク・キム (Yun Hak Kim) 助教授は述べた。彼はゲノム科学学際科学部の主任教授でもある。

上へ戻る