韓国特許庁、防諜機関へ

2024年5月20日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)

韓国政府が年々増加かつ巧妙化する技術流出防止対策を強化している。国際経営開発研究所(IMD)が発表した2023年の「世界競争力ランキング」によると、韓国は科学インフラ項目では2位であるが、知識財産権保護項目では28位にとどまった。ちなみに日本は科学インフラ8位、知識財産権保護34位である。科学インフラに比べて知識財産保護競争力は後れを取っていることである。

韓国特許庁は、2024年4月23日大統領令の「防諜業務規程」改訂案の施行により、特許庁が「防諜機関」に新規指定されたと明らかにした。

韓国の「防諜業務例規」によると、防諜とは国家安保と国益に反する北朝鮮、外国及び外国人・超国家行為者またはこれらと連係する内国人の情報活動を探り、その情報活動を確認・けん制・遮断するための情報の収集・作成及び配布などを含めたすべての対応活動である。

今回特許庁が防諜機関の仲間入りすることによって、韓国の防諜機関は国家情報院、法務部、関税庁、警察庁、海洋警察庁、国軍防諜司令部の7機関となった。今後これらの防諜機関は産業スパイ対応に協調していく。

これに合わせて、特許庁はより一層強化した技術流出防止対策も公表した。これで特許庁により進められた「技術保護4重の安全装置」が出そろい、本格稼働することになる。

表 特許庁の技術流出防止に向けた「4種の安全装置」
主な内容 施行日
防諜業務規程改訂による特許庁の防諜機関への指定 2024年4月23日
司法警察職務改訂により、技術警察の捜査範囲をすべての営業秘密犯罪へ拡大
*営業秘密の不正取得・使用・漏洩のみ捜査可能→予備・陰謀・不当保有・無断流出も捜査可能へ
2024年1月16日
知識財産・技術侵害犯罪の量刑基準の改訂により、処罰強化 2024年7月1日
不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律改訂により最大5倍の懲罰賠償へ 2024年8月21日

出典:韓国特許庁

まず、特許庁の防諜機関指定によって、他の防諜機関と協調しながら産業スパイ捜査においてより一層の協力が可能になった。

特許庁は様々な技術分野の弁理士・技術士などの専門人材を保有しており、海外の巨大な先端特許データを確保している。特許庁はその分析情報を国家情報院傘下の「防諜情報共有センター」に提供し、他防諜機関と情報共有しながら対応していく。

二つ目、特許庁の技術専門家となる「技術警察」は、特許・営業秘密侵害など技術流出犯罪の専門捜査組織である。しかしながらこれまでは営業秘密侵害犯罪への対応に限界があった。営業秘密を競合会社など他人に実際漏えいしない限り、これを謀議したり準備する行為が確認できても、捜査権限がなかった。今回「司法警察職務法」改訂によって、技術警察の捜査範囲が予備・陰謀行為及び不当保有を含めた営業秘密侵害犯罪へ拡大することで、事前防止対策がより一層強化される。

三つ目、7月から営業秘密流出犯罪に対する量刑基準が強化される。海外への技術流出の最大量刑はこれまでの9年から12年へ増える一方(国内流出の場合、6年から7年6カ月へ)、初犯にもすぐ実刑判決が下されるようになる。

近年国家間技術覇権競争が激しくなり、韓国企業の重要技術を狙う海外企業からの技術流出事件が相次いでいる。韓国国家情報院によると、2017年から2023年の間に海外技術流出摘発件数は140件で、被害規模は約33兆ウォンだった。中でも韓国が技術優位を持つ半導体分野が主なターゲットとなっている。2019年半導体関連技術流出摘発件数は3件であったが、2023年には15件へ急増した。しかし、その深刻さに比べて処罰は軽いとの指摘があった。

最後に、特許庁は2024年2月、技術流出行為である営業秘密侵害に対する警鐘を鳴らすために不正競争防止法を改訂し、懲罰的損害賠償の限度を損害額の3倍から5倍へ引き上げた。特許庁によると、技術保護を強化している米国の2倍に比べても高く、これまで5倍の懲罰的損害賠償を施行している国は中国が唯一であったという。

併せて、営業秘密侵害犯罪の場合、法人による組織的な犯罪が多いことから、法人の罰金刑に対しては、行為者に課される罰金の最大3倍へ引き上げる。

特許庁はこの「4重の安全装置」によって、技術流出情報収集・分析、捜査、処罰への対応が一層強化されると期待している。今後は、退職者による技術流出が多数発生していることから、営業秘密を紹介・斡旋・誘引するブローカー行為を侵害と規定し、処罰できるように法改訂を進める計画である。

上へ戻る