【AsianScientist】人間の脳は生まれつき音楽を愛するように進化したのかもしれない

韓国の科学者たちの研究から、人間の脳は音楽に触れる以前から、音楽に対する自然な感受性を発達させていることが分かった。(2024年5月31日公開)

科学者たちは、異なる文化の中でも人々が自然に音楽を鑑賞していることに長い間興味を持っていた。今回、Nature Communications誌に発表された韓国の研究は、今まで音楽に触れたことのない人の脳にも音楽感受性が自然に現れる可能性があると述べた。

科学者たちは最近まで、音楽を処理する神経経路がどのように発達し、この芸術形式に対する普遍的な感受性がどのように生み出されるのか分かっていなかった。しかし、いくつかの実験から幼児もアマゾン住民も生得的に音楽を知覚する能力を示すことが分かり、音楽センスを養うにあたり、はっきりした音楽訓練は必要ないのではないかと考えられるようになった。

その答えを探すために、韓国科学技術院 (KAIST) の研究チームは、人工ディープ・ニューラル・ネットワーク (DNN) を使用した。これは、人間の脳の働きを真似るように訓練された仮想脳で、本物の脳と同じように情報を学習して処理することができる。DNN は最近、人間の脳の感覚機能の発達を理解するために使える強力なツールであることが証明された。

研究において、チームは数多くの音声録音を集めたGoogleのAudiosetを利用して、現実のさまざまな音でこのネットワークをトレーニングした。チームは、ネットワーク内の特定のニューロンが、楽器と音声の両方の音楽に選択的に反応することを発見した。これらのニューロンは皆、動物、自然、機械の音などの非音楽的な音に対しては最小限の感度を示した。

人間の聴覚皮質のニューロンが音楽を処理するのと同じように、人工ニューロンも音楽のタイミングや構造に反応する。たとえば、メロディーが断片化され作り変えられた音楽を聴くと、ジャンルに関係なく活動性が低下する。このことは、同様のメカニズムが生物学的な脳でも起こり得ると考えられる。

興味深いことに、これらのニューロンが抑制されると、他の自然音を正確に認識するネットワークの能力が大幅に損なわれることが分かった。論文著者たちはこれらの発見に基づいて、人間の脳は、現実世界の広範な音を効果的に処理する能力を高めるために、生まれながらに音楽選択神経機能を発達させるように進化した可能性があるという結論を出した。

この研究を主導したKAIST物理学科のハウン・ジョン (Hawoong Jung) 教授は「私たちの研究結果は、進化圧が存在したため、異なる文化の中でも音楽情報を処理する共通した基礎が出来上がったことを示唆しています」と述べた。

この研究は、音楽によるトレーニングの後に起こる発達過程を探るものではない。しかし、人工ディープ・ニューラル・ネットワークを使用することで、発達初期における音楽と人間の生得的な関係を明らかにしたことは重要な発見であることには変わりはない。

「人間のような音楽感受性を持つこの人工モデルが、AIによる音楽生成、音楽療法、音楽認知の研究など、さまざまな用途に向けて独創的なモデルになることを期待しています」とジョン教授は語った。

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