韓国の研究者たちは、インプラントに影響を及ぼす慢性炎症性疾患独特の遺伝子マーカーを特定した。(2025年5月22日公開)
高齢者の人口増加、口腔衛生意識の高まり、所得水準の上昇、そして平均寿命の延びにより、アジア太平洋地域はインプラントの最大市場の一つとなっている。しかし、このため、慢性炎症性疾患でありインプラント周囲の歯肉の軟部・硬部組織に影響を及ぼすインプラント周囲炎 (Peri-Implantitis : PI) の増加が際立っている。
PIの現在の治療法は、同じく慢性炎症性歯肉疾患である歯周炎の治療と同様であるが、これらの疾患のメカニズムの根本的な違いは未だに分かっていない。
韓国釜山大学校の研究者たちは、PIと活性化線維芽細胞の間に特有の関連性があることを発見した。また、診断と治療を改善させるかもしれない特定のマーカー遺伝子も明らかにした。この研究はJournal of Dentistry誌に発表された。
天然歯と同様に、インプラントの根元では歯肉線下に細菌が蓄積し、時間の経過につれて炎症や組織損傷を引き起こすことがある。放置するとインプラントの下の骨吸収が進み、症状の管理が困難になり、再発しやすくなる。さらには、インプラントの脱落につながることもある。
この研究では、研究者たちはインプラント周囲炎と歯周炎の両方の症状を持つ10人の患者から歯肉組織を採取した。RNAを抽出し、シーケンシングとバイオインフォマティクスを用いて、遺伝子活性、免疫反応、組織変化を調べた。
この研究により、結合組織中の活性化した線維芽細胞が異常増殖し始め、インプラント周囲炎において重要な役割を果たしている可能性が明らかになった。また、インプラント周囲炎でさらに活性の高い3つのマーカー遺伝子も特定され、これらの遺伝子がインプラント周囲炎の特異的バイオマーカーとなる可能性がある。
釜山大学校医学部の主任研究者であるユン・ハク・キム (Yun Hak Kim) 准教授は「この研究は、活性化した線維芽細胞がインプラント周囲炎と歯周炎の病因で特徴的因子として果たす役割について、重要なことを教えてくれます。インプラント周囲炎と歯周炎は臨床的に類似点がありますが、それぞれ独自の生物学的経路を示しています。この研究では、インプラント周囲炎において過剰発現が明らかに分かる3つの重要なバイオマーカー (ACTA2、FAP、PDGFRβ) を特定しました。これらのバイオマーカーは、鑑別診断を容易にし、インプラント周囲炎に特化した治療法の開発の役に立つと考えられます」と述べている。
診断でバイオマーカーを利用すれば、インプラント周囲炎と歯周炎の誤診を減らし、患者の転帰を改善し、特に高リスク患者に対する治療は的を絞ったものにすることができる。
キム准教授は、「これらの知見は、インプラント周囲炎の診断と治療に関する臨床戦略を、大きく進歩させるかもしれません」とつけ加えた。
この研究で特定され、発現が異なる遺伝子は、PI特有の生物学的特性に合わせた治療法の開発につながる可能性を秘める。
「今後5~10年の間に、この研究の知見は、歯周炎とは異なるインプラント周囲炎独特の生物学的・免疫学的特性に焦点を当て、高度に専門化された標的治療法の開発の基礎となると考えられます」とキム准教授は語る。