2025年8月5日 安 順花(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー)
韓国科学技術情報通信部(科技部)は2025年7月10日、国内の研究者が国際共同研究を行う際、相手国の研究セキュリティ規定の不知により生じ得る不利益を事前に防ぐために、国際共同研究向け研究セキュリティーガイドブックを発行したと明らかにした。
科学技術のグローバル化を背景に、国際共同研究は国家間技術協力とイノベーション促進に不可欠なものになっているものの、近年技術覇権競争の深化によって、経済安全保障の観点から研究セキュリティの重要性が高まっている。
このような状況の中で、韓国科技部は先進国を中心として研究セキュリティを強化する政策を打ち出しており、国際共同研究に参加する韓国の研究者が順守しなければならない研究セキュリティも一層厳しくなっていると、ガイドブック発行の背景を説明した。
同ガイドブックは米国との国際共同研究の際、韓国人研究者が注意すべき米国の研究セキュリティ関連制度及び規定などを体系的に取りまとめた「国際共同研究 研究セキュリティ手引き(米国編)」である。
今回米国に特化したガイドブックを先行発行した背景には、2025年3月に明らかになった米国エネルギー省(DOE)によるセンシティブ国指定があると見られる。米DOEのセンシティブ国に指定されると、韓国人研究者のDOE傘下研究機関などへの出張や情報共有など、技術協力に制約がかかる。米国は連邦研究開発資金を受ける場合、外国との関連活動及び支援内容について情報開示を義務付けている。
JSTアジア・太平洋総合研究センター(APRC)が2025年に公開した調査報告書「韓国の経済安全保障政策動向」によると、韓国の国際共同研究における研究セキュリティ・インテグリティの確保に向けた取り組みについてはまだ日が浅く、2024年に改訂された「国家研究開発革新法施行令」により、新たに契約される全ての国家研究開発事業の研究責任者に対する国外からの支援にかかる情報の報告が義務づけられるなど、緒に就いたばかりである状況である。
今回ガイドブックでは、米国連邦政府及びDOE、国立科学財団(NSF)、国立衛生研究所(NIH)、航空宇宙局(NASA)、国防総省(DoD)の5つの主要研究開発支援機関の研究セキュリティ関連制度や規定を紹介し、仮想シナリオに基づいた注意事項などを段階別で示している。
さらに、韓国科技部は年末をめどに、EUの研究セキュリティ関連制度を追加した増訂版も予定している。韓国科技部と外交部は7月17日、世界最大級の多者間研究イノベーションプログラムであるホライズン・ヨーロッパ(Horizon Europe)の準加盟国加入に関する議定書及びEUプログラムの参加に関する協定に正式署名した。韓国研究者は既に協定暫定適用により2025年1月からホライズンプログラムへの参加が可能になり、韓国の研究者がEUの研究者とコンソーシアムを組んで様々なプロジェクトに申請している。
韓国では、人工知能(AI)、バイオ、量子技術など先端重要技術を中心に、欧米の先進国との共同研究を通じて世界レベルの研究成果を目指し、大規模な共同研究プロジェクトを増やしている。その過程で、昨今のセンシティブ国指定やマニュアル不備といった内外からの指摘に対応する形で、研究セキュリティーガイドブックを作成した。今後、研究セキュリティとインテグリティの確保がますます課題となる中、韓国科技部によるこれらの取り組みが、単なる問題対応にとどまらず、将来的な国際研究における信頼性向上へとつながることが期待される。