体内時計に支配される睡眠と覚醒の循環。その障害につながるメカニズムが解明された。
Asian Scientistt覚醒のリズムを障害するなぞが、数学的モデリングによって解明された。韓国科学技術院(KAIST)の研究者らによるこの研究成果は、全米科学アカデミー紀要に発表された。
睡眠と覚醒の循環は、朝型人間か夜型人間かを問わず、すべて概日リズムとして知られる体内時計に支配されている。概日リズムの周期的なパターンを調整する非常に重要な役割を担う因子は、「PERIOD(PER)タンパク質」だ。
PERタンパク質は、目が覚めるとすぐに細胞質内で増え始める。タンパク質が特定の閾値に達すると、細胞質のPER分子はすぐに細胞核に入る。次に、PERが突然流入したことで、PER遺伝子の転写が妨げられ、この段階でPERの量が減る。このサイクルは翌日も繰り返される。
細胞の環境の複雑さを考えても、数千ものPER分子が一体どのようにして同時に細胞核に入ることができるのかという点が依然として解明されていなかった。KAISTのキム・ジェ・キョン(Kim Jae Kyoung)教授が率いる研究チームはこの謎を解くため、細胞質でのPER分子の動作を詳しく説明する数学モデルを考案した。
このモデルによると、リン酸化を介して「スイッチを入れて」細胞核に一斉に入ることができるようになる前に、PERがまず細胞核周辺にしっかりと集合している必要がある。この予測を生体内実験により検証したところ、リン酸化されたPERが時間とともに徐々に蓄積されるのではなく、PERのリン酸化が急激に亢進することが明らかになった。
このモデルでは、細胞核周辺でのPERの集積を阻止する細胞質の密集が、スイッチに似たPERの挙動を乱すため、結果的に概日リズムが不安定になる。研究者らは実際に、細胞核周辺での脂肪の蓄積がPERのリン酸化に変化を与え、概日リズムを崩すことを指摘している。なお、PERの値が上昇すると、概日リズムが修復される。
なぜ概日リズムや睡眠の障害が、細胞質が鬱滞するような代謝性・神経変性の疾患や加齢の条件下で生じるかについて、これらの研究結果はそのメカニズムに光をあて解明したことになる。
「不規則な睡眠覚醒循環で苦しむ多くの患者さんの生活改善に向けて新たな治療戦略の前進に、数学者の立場から貢献できることに胸が躍ります。今回得られた結果を一つの機会ととらえ、数学と生物科学との間での意見交換や共同研究など、これまでよりも活発な研究活動が今後もできればと思います」とキム教授は話している。