韓国の光州科学技術院(GIST)は5月3日、電気工学・コンピューターサイエンス学部のイ・ヒョンジュ(Hyunju Lee)教授の研究チームが、全ゲノム配列データ(個人の全てのDNAの塩基配列を決定するデータ)を解析して高精度で遺伝子変異を発見できる、グラフを用いたアルゴリズムを開発したと発表した。論文は4月21日、科学誌Nature communicationsのオンライン版に掲載された。
個々の患者のがん細胞に存在する遺伝子変異を特定することは個別化医療を行う上で重要だが、ヒトのゲノムを構成する30億のヌクレオチド配列を解析して正確に変異を検出することは困難である。研究チームが開発したこの「Integrative Framework for Genome Reconstruction (InfoGenomeR)」アルゴリズムは、ゲノム全体のデータを用いてゲノム構造を1ヌクレオチド配列のレベルまで復元できる点で革新的であり、従来の手法より高い精度で変異を検出することに成功した(検出精度98.1%、F値94.9%)。
このアルゴリズムで乳がん患者と脳腫瘍患者のデータを分析した結果、二重微小染色体と呼ばれる環状のゲノムが数十倍に増幅していたことや、再発・転移したがんでは元のがんの部位に存在しなかった新たなゲノム再編成が生じることが分かった。
イ教授は「このアルゴリズムで解析したがん細胞のゲノム配列に基づいて、個別化医療に向けたがん関連遺伝子の発現制御方法を特定できる可能性がある」と話している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部