韓国の漢陽大学校は7月23日、乳タンパク質ラクトフェリンでコーティングした金のナノ粒子を用いた、脳腫瘍の新たな経口薬を開発したと発表した。服用が容易で脳の腫瘍部分に到達しやすく、その他の部位のがん治療に応用できる可能性がある。研究成果は科学誌 Bioactive Materials オンライン版に掲載された。
血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)の存在により、脳腫瘍に薬を伝達することは他の臓器の場合よりも困難である。経口投与の脳腫瘍治療薬の開発では、小腸からの吸収と血液脳関門の通過を両立させることが課題となっていた。
そこで同大学校生物工学科のイ・ドンユン(Lee Dong-yun)教授が率いる研究チームは、初乳中のラクトフェリンが小腸に吸収される際の高い吸収性に着目し、腸管細胞と脳腫瘍細胞の表面に存在する受容体とラクトフェリンを結合する基盤技術を開発した。
チームはまず、小腸での吸収率を高めるためにラクトフェリンでコーティングした金のナノ粒子を、脳腫瘍を持つマウスに 投与した。ラクトフェリンを用いない場合と比べ、脳腫瘍病変に到達する金のナノ粒子の量は8倍に増加した。その後、ナノ粒子の物理化学的特性を利用して、脳腫瘍部位に光を照射して発熱させ、腫瘍を治療した。
この研究の意義は、ラクトフェリンを用いた基盤技術を開発し、脳腫瘍を含むさまざまな脳疾患の治療の可能性を広げたことにある。さらにイ教授は「この経口薬の新しい技術を基にがんの治療薬の開発においても一歩前進した」とも語る。イ教授らは現在、この技術を用いて光線力学的療法を行うための技術を開発しているという。
本研究は科学技術情報通信部(Ministry of Science and ICT)の支援を受けて実施された。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部