韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は、同校の研究者が3Dバイオプリンティングを用いてがんと血管の相互作用を生体外で再現するモデルを開発したと発表した。8月24日付。この技術を用いて患者ごとのモデルを作製し、治療効果を前もって検証できれば、がん分野の個別化医療としてプレシジョン・メディシン(精密医療)につながる可能性がある。研究の成果は学術誌 Small Methods に掲載された。
この研究は、機械工学科のチョ・ドンウ(Cho Dong-Woo)教授と博士候補生チョ・ウォンウ(Cho Won-Woo)氏が率いる研究チームが、釜山大学校(Pusan National University)、中国の北京理工大学(Beijing Institute of Technology)の研究者らと共同で実施した。転移性の悪性黒色腫(メラノーマ)の特性を模倣したがん細胞のスフェロイド(spheroid)を、脱細胞化細胞外マトリックス(decellularized extracellular matrix: dECM)バイオインク内に直接3Dプリントする方法を開発し、この技術を用いて、血管を備えたさまざまな直径のがんスフェロイドを作製することに成功した。
スフェロイドは3D培養した細胞を球状に凝集した塊で、がんの特性を模した体外モデルの作成には不可欠な要素となる。さらに、がんの転移を正確に再現するには、血管新生に関わる腫瘍の大きさや位置を再現することが重要であるが、これまで、こうした特徴を柔軟に模倣できる技術は開発されていなかった。
プリンティング技術を用いたがん血管モデル作製のイメージ(提供:POSTECH)
チョ教授は、「実際の血管を模倣した体外培養血管を備えたがんスフェロイドを印刷することで、血管へのがん転移をより正確に再現できた」と語る。
今回開発された技術を用いることで、患者の細胞を用いて体外で個別のがん-血管モデルを作成し、最適な治療方法を調べることができるようになる可能性がある。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部