米国のコロンビア大学(Columbia University in the City of New York)は11月1日、同大学のジェイムズ・ホーン(James Hone)博士 らと韓国・成均館大学校(Sungkyungkwan University)のユ・ウォンジョン(YooWon Jong)博士 による共同研究チームが、不純物の少ない層を用いてグラフェンの電気の流れを調整し、電気伝導率を高める方法を開発したと発表した。研究成果は学術誌 Nature Electronics に掲載された。
シリコンを用いて電気回路を形成する際、電気伝導性を調整するために別の原子(ドーパント)を添加する「ドーピング」という技術を用いる。しかし、「二次元材料」として注目されるグラフェンには、シリコンと同じドーピング手法は適用できない。代わりに、グラフェンの電子量を調整する「電荷移動層」を重ねる方法が試みられているが、この層に含まれる不純物により、電気伝導性が低下することが問題となっていた。
研究チームは、タングステンセレナイドを酸化した不純物の少ないタングステンオキシセレナイド(tungsten oxyselenide: TOS)の電荷移動層を用いてグラフェンをドーピングする「清浄な(clean)」方法を開発した。
この新しいドーピング法を用いた場合、従来の方法を用いた場合よりもグラフェンの電気移動度(電荷の移動しやすさ)が高くなり、グラフェンに、銅や金のような金属よりも高い電気伝導率を持たせることができた。
また、この方法でドーピングを行ったグラフェンは電気伝導率だけでなく、透明性も高くなる。フォトニックデバイスを通じた情報伝達において、透明性と電気伝導率は非常に重要な要素となる。
ホーン博士はこの手法を、「グラフェンの性質を必要に応じて調整するための新たな方法 」だと語った。
有望な用途としては、TOSのパターンを変更することでグラフェンの電子的・光学的性質を変化させ、電気回路をグラフェンに直接刷り込む(imprint)技術が考えられる。また、研究チームは、ドーピングした材料をフォトニックデバイスに統合し、透明エレクトロニクスや電気通信システム、量子コンピューター等に利用することも検討している。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部