韓国の高麗大学校(Korea University)は7月6日、同校とハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)、韓国国立がんセンター(National Cancer Center)の研究者による共同研究チームが、患者から採取したがん細胞を隣接細胞と共に培養することにより、抗がん剤への耐性獲得にかかわる相互作用を再現できるマイクロ流体チップを開発したと発表した。研究成果は6月3日付けで学術誌 Advanced Science に掲載された。
個々の患者に応じたがん治療を提供するには、がん細胞のゲノム情報やがん組織の環境に応じた治療薬を選択する必要がある。しかし、腫瘍は遺伝的に多様であるため、ゲノム情報だけを手掛かりに最適な治療を提供することは困難である。また、動物を用いた試験では、ヒトの多様な細胞や腫瘍微小環境を再現できないことが多い。
今回開発されたマイクロ流体チップ技術は、脳に転移した肺がん細胞を、その細胞に特有の微小環境で培養する。脳の微小環境には、薬の作用を阻害しがん細胞を保護する固有の機能がある。
研究チームは脳血管細胞、アストロサイト、細胞外マトリックスで構成される微小環境を培養することにより脳の微小環境を再構築し、患者から採取したがん細胞をこの微小環境と共培養(coculture)することに成功した。
抗がん剤をこのチップに適用したところ、ゲノムに基づく予想と異なる薬剤応答がみられた。肺がん細胞が脳の微小環境と共に培養された場合、がん細胞単独で培養された場合よりもがん細胞の生存率が高くなり、転写ネットワークのプロファイルが変化した。
研究チームは、「このプラットフォームが再構築するがん細胞と周囲の微小環境の相互作用は、既存のがん治療薬への耐性獲得において重要な役割を果たしている。これを用いて、がん細胞の近くの(cancer cell-paracancerous)微小環境の分子生物学的機構を調べ、新たながん治療戦略を作成できる 」とコメントした。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部