韓国の基礎科学研究院(IBS)のCenter for Theoretical Physics of Complex Systems(PCS)の研究チームは、マイクロメーザー(micromaser)が量子バッテリーのモデルとして優れた機能を持っていることを示した。8月25日付け発表。
イタリア・インスブリア大学(University of Insubria)のジュリアーノ・ベネンティ(Giuliano Benenti)氏との共同研究。この研究成果は学術誌 Quantum Science and Technology にレターとして掲載された。
PCSの研究者らは最近、量子バッテリーが古典的な充電方式と比べ、充電速度を大幅に向上させられることを理論的に示した。しかし量子バッテリーを用いた実験の例はまだ乏しく、この状況を打開するには、より利用しやすい新たな量子プラットフォームを見つけることが重要である。
量子バッテリーの実現に向けては電磁場を用いてエネルギーを貯蔵する方法が研究されているが、電磁場は必要な量以上のエネルギーを吸収する可能性がある。そのため、例えば、携帯電話のバッテリーを充電する際、電源に接続している限りは無制限に電荷を増やし続けるため、過充電の危険がある。
今回の研究では、マイクロメーザー(原子のビームを用いて光子を空洞に汲み上げる装置)ではこのような危険が生じないことを示した。マイクロメーザーは原子のビームを用いて光子を空洞にくみ上げる(pump)装置である。電磁場は、マイクロメーザーの構築時にあらかじめエネルギー量を設定した最終構成(安定状態[steady state])にすみやかに到達するため、過充電を防止できる。
(提供:IBS)
さらに、この電磁場の最終構成は充電中に使用された量子ビットの記憶を保持しない「純粋状態(pure state)」となるため、バッテリーに蓄えられたすべてのエネルギーをいつでも必要な時に抽出できる。チームは今後、量子バッテリーの試作品の構築を目指し、ドイツ・ジーゲン大学(University of Siegen) のステファン・ニムリヒター(Stefan Nimmrichter)氏らと共同でマイクロメーザーを用いたモデルの研究をさらに進める。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部