2022年10月
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インスリン成長因子三元複合体の秘密を解き明かす 韓国

インスリン様成長因子 (IGF) は、胎児や子供の成長に大きく影響するが、成人の体の維持や代謝にも関係するホルモンである。IGFは、さまざまな組織の細胞膜に分布するIGF受容体を活性化することにより、細胞の増殖、分化、および生存を調節する。しかし、IGFは非常に不安定であるため、遊離IGFの半減期は10分未満である。

このため、体内を循環するIGFの70% 以上がIGFBP(IGF結合タンパク質)およびALS(酸不安定サブユニット)に結合している。この IGF/IGFBP/ALS の三元複合体は、はるかに長い時間(12 時間)にわたり安定しているため、IGFの担体として機能する。 さらに、この三元複合体は、IGF が必要な場合にのみ作用するように調節する役割も果たす。しかしながら、この三元複合体の構造は十分に研究されておらず、複合体がどのように組み立てられ、IGFをどのように活性化するかを理解することは困難であった。

これに対し、韓国の基礎科学研究院 (IBS) 生体分子細胞構造センターのキム・ホミン (KIM Ho Min) 教授が率いるチームは、IGF1/IGFBP3/ALS 三元複合体の構造を初めて同定した。この構造が分かれば、成長ホルモン欠乏症やALS欠乏症など成長に関する病気を広く理解できるかもしれない。

チームは動物細胞発現システムと一連の精製プロセスを通じて安定三元複合体を発現させ、精製することができた。IBSの低温透過型電子顕微鏡 (cryo-EM)、データハブ、およびスーパーコンピューティング リソースを使用して、解像度の高い三元分子構造を得ることができた。IGF1がIGFBP3に囲まれると、まず二元複合体が形成されることが分かった。次に、IGF1 が体内で容易に分解されるのを防ぐために、ALSはこの二元複合体をパラシュートのようにもう一度包み込む。

研究チームはタンパク質の構造に関する新たな知識を得て、これらのタンパク質の変異に関連する多くの疾患の構造の基礎を理解することができるようになった。特に、ALSについて知られている点変異の多くは、ALSのミスフォールドを誘発し、三元複合体の形成を阻害し、病気を引き起こすことがわかった。一方、IGFについて知られている点変異は、複合体形成能に悪影響を及ぼすことはなく、むしろIGF受容体に対するIGFの親和性を低下させ、病気を引き起こすと思われた。

研究チームはこれにとどまらず、この三元複合体がどのように組み立てられるのかをさらに探った。まず、ALS、IGFBP3、IGF1タンパク質についてポリアクリルアミド電気泳動を行い、複合体が形成されているか否かを確認した。さらに、IGF1タンパク質にGFP(緑色蛍光タンパク質)を融合させ、蛍光検出クロマトグラフィーによって、GFP標識タンパク質が他の2つのタンパク質との複合体形成が可能かどうかを調べた。このことから、IGFBP3やIGF1だけではALSとの二元複合体を形成できないことがわかった。さらに、IGFはまずIGFBPと二元複合体を形成する必要があり、その後に両タンパク質がALSに適切に結合して、初めて三元複合体を形成できることが明らかになった。

第一著者のキム・ヒョジン (KIM Hyojin) 氏は「後の過程を調べる前にまず構造を理解することが必要です。この構造に基づくアプローチと適切な生化学的アッセイによって、IGF複合体の形成と活性化のメカニズムを明らかにすることができました」と述べた。本研究の責任著者であるキム・ホミン教授は、「IGF三元複合体の分子構造と活性化メカニズムに関するこの新しい知見は、思春期の成長やIGF関連疾患の治療薬開発と研究に大きく貢献すると期待されます」と説明する。

(提供:いずれもIBS)

この研究は7月30日に Nature Communications 誌に発表された。

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