2023年01月
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「共感」の発生源、右脳の神経振動と示唆 韓国

韓国の基礎科学研究院(IBS)は、同院の研究チームが、マウスを用いた研究により、「共感」を生じさせる神経機構を明らかにしたと発表した。

他者の感情を感じ取り理解する能力は人間の社会性に不可欠な機能であるが、その基礎を成す脳内の機構はこれまで明らかにされていなかった。人間以外の動物でもみられる「観察的恐怖(Observational fear)」は、共感の基本形であると考えられている。観察的恐怖の実験では、ほかのマウスが電気ショックを受けている様子を見たマウスが、恐怖への反応として「すくみ(freezing)」行動を示す。

IBS認知・社会性センター(CCS)のシン・ヒスプ(Shin Hee-Sup)博士が率いる研究チームは、この観察的恐怖モデルと光遺伝学実験を用いて、共感の発生源を探索した。

チームは、脳の右半球の複数の領域で同期して生じる神経の振動(synchronized neural oscillations)が、共感の発生に重要な役割を果たしていることを示した。なかでも、前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC)と扁桃体基底外側部(basolateral amygdala:BLA)との間の同期は、他者の苦しみに間接的にさらされることで生じる共感的な恐怖に特有であった。

シン博士は「観察的恐怖が哺乳類全体に普遍的にみられることを考えると、共感の発生に重要な同様の神経特性(neural signature)が人にも見つかると考えることは妥当であり、このことは、精神障害を有する人々の共感に関する異常の特定に役立つ可能性がある」と語った。

rACC と rBLA の間の相互接続は、観察的恐怖の原因となる
A. マウスにおける観察的恐怖の行動手順の模式図
B. rACC-BLA 投影の光遺伝学的阻害は、観察的恐怖の間にすくみを有意に減少させた
C. rACC-rBLA投影の光遺伝学的阻害は、観察的恐怖の間にすくみを有意に減少させた

rACC と rBLA の 5~7 Hz のリズムは、共感反応に因果関係がある
A. 5~7 Hz のリズムは、rACC と rBLA の観察的恐怖の間に選択的に増加する
B. 閉ループ操作実験の模式図
C. 閉ループ操作は、rACC とrBLA で 5~7 Hz のリズムを乱した
D. クローズドループ操作は、観察恐怖の際のすくみ行動を混乱させた

海馬のシータ振動は、ACC-BLA シータ振動と観察的恐怖を双方向に調節する
A. 海馬調節の模式図
B & C. 海馬シータの光遺伝学的阻害は、ACC-BLA 回路と観察的すくみにおいて 5~7 Hz 減少した
D & E. 海馬シータの光遺伝学的刺激は、ACC-BLA 回路と観察的すくみにおいて 5~7 Hz 増加した
(提供:いずれもIBS)

2022年12月2日付け。研究成果は学術誌 Neuron に掲載された。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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