紙に描くような簡単な動作で活き活きと動く3Dのスケッチ。韓国科学技術院(KAIST)の研究チームは、このような3Dコンセプトを容易に作成できるシステムを開発した。研究成果をまとめた論文は学術誌 ACM Transactions on Graphics に掲載された。
技術の進歩により、折り畳み式のドローン、変形する車、多脚ロボットといった、SF映画で見るような機械が現実のものになりつつある。しかし、従来の3DのCADツールでは、複数の可動部と関節を持つ製品の3Dコンセプトを作成する作業は骨が折れ、時間がかかる。このことは設計初期段階におけるボトルネックとなっていた。
ぺ・ソクヒョン(Bae Seok-Hyung)教授が率いる研究チームが開発した「3Dスケッチング(3D sketching)」技術は、タブレットにペンでおおまかに描いた線を基に、即座に3D曲線を作成する。デザイナーはマルチタッチ・ジェスチャーを用いて3Dスケッチを思い通りに動かすことができる。
ペンとマルチタッチ・ジェスチャーの小さなセットを使用して、関節式の 3Dコンセプトを迅速に設計するための斬新な3Dスケッチシステム
(a) スケッチ:3Dスケッチ曲線は、スケッチ平面ウィジェットに投影されたペンストロークをマークすることによって作成される
(b) セグメント化:スケッチ カーブの全体または一部が、キネマティックチェーンのリンクとして機能する別のパーツに追加される
(c) リギング: パーツの望ましい動きを繰り返し実証すると、システムがジョイントを推測する痕跡が残る
(d) ポージング:フォワード キネマティクスまたはインバースキネマティクスを介してジョイントを作動させることにより、目的のポーズを実現できる
(e) 撮影:目的のポーズと視点を指定する一連のキーフレームがスムーズなモーションとして接続される
(a) 自律式掘削機の概念図
(b、c) 4つのキャタピラが旋回して高い機動性を実現
(d) 伸縮可能なブームと複数のリンクで接続されたバケット
(e) 回転するプラットフォームを備えている
8 年の実務経験を持つこのコンセプトのデザイナーは、このような複雑な多関節オブジェクトを既存のツールで表現して伝達するには、1~2週間かかると見積もっている。提案されたシステムでは、わずか2時間52分しかかからなかった
同チームは2022年8月にカナダ・バンクーバーで開催されたコンピューターグラフィックス業界最大の国際カンファレンス「ACM SIGGRAPH 2022」でこの技術を披露し、会場を沸かせた。基調講演を行ったピクサー(Pixar)の共同創業者エドウィン・キャットマル(Edwin Catmull)氏もこの技術を「本当に素晴らしい」と称賛した。
3Dスケッチの様子
この技術はIT系Webサイトで紹介されたことをきっかけに日本でも注目を集め、一般財団法人デジタルコンテンツ協会から賞を受けた。また、2022年11月に開催された日本最大規模の通信・メディア展示会「Inter BEE 2022」にも出展した。このツールは、コンテンツ制作や製造、メタバース等の業界で設計プロセスに変革をもたらすと期待されている。
ぺ・ソクヒョン(Bae Seok-Hyung)教授(右端)ら
(提供:いずれもKAIST)
2022年11月23日付け発表
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部