韓国の高麗大学校(Korea University)医学部のキム・テウ(Kim Tae Woo)教授率いる研究チームがシスプラチン耐性に至る経路を明らかにし、これを克服するための潜在的な治療標的を特定した。研究成果は、Nature Communicationsのオンライン版に掲載された。
シスプラチンは、子宮頸がんをはじめ様々な種類のがんに広く使用されている化学療法薬である。しかし、シスプラチンを頻繁に使用すると、シスプラチン耐性が生じたり神経障害性疼痛のような副作用が生じたりするため、その克服が子宮頸がん治療の重要な課題となっている。
キム教授の研究チームは、手術を受けた子宮頸がん患者のトランスクリプトームを解析し、上皮成長因子受容体(EGFR)の活動スコアが高いことが、シスプラチン治療を受けた患者の全生存率の低さと関連していることを発見した。子宮頸がん細胞株を用いてEGFRシグナル伝達に関する実験を行ったところ、シスプラチン耐性細胞株はシスプラチン感受性細胞株に比べ、EGFRシグナル伝達の亢進を示すことが観察されたという。
研究チームはさらに、がん細胞の抵抗性、転移、幹細胞様の性質に関連する転写因子であるNANOGが、EGFR経路の制御に関与しており、神経障害性疼痛の原因となる一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)を活性化させることを突き止めた。TRPV1はさらに、上皮成長因子(EGF)の分泌につながる分泌性オートファジーと呼ばれるプロセスを促進する。分泌されたEFGは、EGFRシグナル伝達経路を活性化し、シスプラチン耐性の一因となる。
キム教授は、「我々の研究で最も注目すべきは、AMG9810という潜在的な鎮痛剤を用いてTRPV1を阻害することで、耐性腫瘍がシスプラチンに感受性を示すようになったことである」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部