韓国の高麗大学校(Korea University)工学部材料科学・工学科(Department of Materials Science and Engineering, College of Engineering)のキム・セホ(Kim Se-Ho)教授が、原子スケールのイメージング顕微鏡を用いて、水素が燃料電池の正極材料における性能低下の根本原因であることを突き止めた。7月31日付け発表。この研究成果はACS Energy Lettersの8月号に掲載され、表紙論文に選ばれた。
水素はどこにでもある普遍的なエネルギー源であり、再生可能エネルギーとして貯蔵することが可能である。しかし、最も小さな元素であることから材料に浸透しやすく、水素脆化を引き起こすことによって材料を劣化させることがある。
キム教授の率いる研究チームは、ドイツのマックス・プランク研究所(Max Planck Institute)のバプティスト・ゴールト(Baptiste Gault)教授の研究チームとともに、アトムプローブ・トモグラフィ(Atom Probe Tomography:APT)を用いて、水素燃料電池触媒内部のドーパント元素の痕跡の変化を確認した。
その結果、燃料電池の正極材料における水素酸化反応中に、触媒活性を向上させるドーパント元素が触媒から除去されてしまうことが分かった。量子力学に基づく第一原理シミュレーションにより、水素が触媒の化学組成を変化させ、触媒活性の劣化につながっていることが明らかになった。
キム教授は、「この研究は、水素燃料そのものが引き起こす問題とその原因を解明し、その解決策を提案するものである。水素経済を発展させるため、材料中の水素の悪影響を抑制する方法についての今後の研究に期待している」と述べた。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部