韓国の基礎科学研究院(IBS)ナノ粒子研究センター(Center for Nanoparticle Research)のカン・キスク(Kang Kisuk)教授率いる研究チームが、リチウム-金属-塩化物固体電解質(lithium-metal-chloride solid-state electrolyte)の画期的な改良に成功した。11月3日付発表。この研究成果はScienceに掲載された。
固体電池の実用化には、高いイオン伝導性、強固な化学的・電気化学的安定性、機械的柔軟性を備えた材料の開発が不可欠である。このような材料の最有力候補として塩化物系固体電解質が注目されたこともあったが、高価なレアアース金属への依存度が高いため、実用的ではないとみなされていた。
IBSの研究チームは、塩化物電解質中の金属イオンの分布に注目した。彼らは、三方晶系(trigonal)の塩化物電解質が低いイオン伝導率を達成できる理由は、構造内の金属イオンの配置の変化に基づくと考えた。そして、この理論をまず、一般的な塩化リチウム金属化合物(lithium metal chloride compound)である塩化リチウムイットリウム(lithium yttrium chloride)で検証した。金属イオンがリチウムイオンの通り道の近くに配置されていると、静電気力によってリチウムイオンの移動が妨げられた。逆に、金属イオンの占有率が低すぎると、リチウムイオンの通り道が狭くなり、移動が妨げられた。
得られた知見に基づき、研究チームはこれらの相反する要因を緩和する方法で電解質を設計する戦略を導入し、最終的に高いイオン伝導性を持つ固体電解質の開発に成功した。さらに、ジルコニウムをベースとしたリチウム金属-塩化物固体電池を開発した。開発された固体電池は、レアアース金属を使った固体電池よりはるかにコストが安い。今回の研究は、材料のイオン伝導性にとっての金属イオンの配置の重要性が実証された初の例であり、優れたイオン伝導性を示す塩化物系固体電解質を使った電池の生産を可能にすることが期待される。
三方晶系塩化物固体電解質の設計戦略
(出典:IBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部