韓国科学技術院(KAIST)と光州科学技術院(GIST)の共同研究チームが、肝臓に中性脂肪がたまる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD=ナッフルディー)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)の治療薬として有望な末梢作用性の薬剤を開発し、臨床試験を実施した。2月21日付発表。研究の成果は学術誌Nature Communicationsに発表された。
NAFLDとその進行型であるNASHは、悪化すると死亡リスクの増加につながるため、初期段階での適切な治療が必要である。しかしこれらの疾患に特化した治療薬は現在、存在しない。
<5HT2A アンタゴニストの戦略と歴史>
強力な 5HT2A アンタゴニストとしての化合物11cの開発のためのライブラリーと合理的な設計。これまでの研究活動は、経口吸収と安全性が限られていたため中止された。この問題を克服する治療候補が特定され、現在、第1相臨床試験が進行中だ
GISTのアン・ジンヒ(Ahn Jin Hee)教授とKAISTのキム・ヘイル(Kim Hail)教授が率いる研究チームは、セロトニン受容体タンパク質「5HT2A」を抑制することで肝臓への脂肪の蓄積と肝線維化の両方を同時に防ぐことができる画期的な化合物を開発した。この物質はNAFLDとNASHの動物モデルを用いた前臨床試験において、脂肪肝と肝線維化を同時に50~70%抑制できることを示した。さらに血液脳関門透過性を最小限に抑えるように設計されているため、中枢神経系への副作用をほとんど生じさせないという。
<GM-60106 (11c) の肥満に対する効果>
GM-60106を肥満動物モデル (マウス) に 2カ月間投与すると、体重、体脂肪量、血糖値が大幅に減少した(a-d) 。さらに、脂肪性肝炎レベル (NAFLD 活動スコア) と、血液/肝臓脂肪とともに脂肪生成に関与する治療マウスの遺伝子発現が減少した(e-h)
(出典:いずれもKAIST)
前臨床試験のデータに基づき実施されたヒトへの第1相臨床試験では、重篤な副作用はみられず、安全性は良好であった。チームは現在、脂肪性肝炎患者を対象とした予備的な有効性評価を実施している。
アン教授は、「この候補物質は高い安全性と、肝脂肪蓄積の抑制による予防的効果だけでなく、肝線維症に対する直接的な治療効果も示している。この点が、競合薬と差別化できる強みである」と説明した。
また、キム教授は、「これまでこの疾患には体重管理以外の治療法がなく、肥満でない患者に使用できる治療薬の開発は試みられてこなかった。今回の研究を通じて、NASHを含むさまざまな代謝疾患を対象とした、体重管理以外の治療技術が開発されることに期待している」と語った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部