韓国の基礎科学研究院(IBS)は10月10日、IBS気候物理学センター(IBS Center for Climate Physics:ICCP)の研究チームが、山岳地帯に見られる多様な生態系が人類の進化に重要な役割を果たしたことを明らかにしたと発表した。この研究成果は、学術誌Science Advancesに掲載された。
「ホミニン」と呼ばれるホモ属の初期人類の考古学的な遺跡は、山岳地域やその近辺で発見されることが多い。ICCPの研究チームは、ホミニンの化石や遺物に関する広範なデータと高解像度の地形データ、300万年にわたる地球の気候のシミュレーションを用いて、初期人類がどのように、またなぜこのような険しい地形に適応したのかを解明した。
山岳地帯は、標高の変化が気候の変化をもたらし、さまざまな動植物種が繁栄できる環境条件を提供するため、生物多様性に富んでいる。研究チームは、そのような生物多様性がもたらす食料資源が、初期人類を引きつけたことを示した。
一方で、険しい地形は平坦な地形に比べ、移動により多くのエネルギーを要する。人類は、より多くの資源を利用するために、険しい地形に徐々に適応する必要があった。ICCPの研究チームは、人類の適応により、険しい環境で暮らすことの費用対効果のバランスがどう変化したかも調べた。その結果、険しい環境への適応は約100万年前まで、最古の人類であるホモ・ハビリスやホモ・エルガスター、ホモ・エレクトスに見られたが、その後30万年ほど途絶えた。そして、ホモ・ハイデルベルゲンシスやホモ・ネアンデルターレンシスといった、より文化的に進化した種の出現とともに再び出現したことが分かった。これらのグループは火を使うことができ、より寒冷な気候に対する耐性も高かった。
この研究の主著者であるICCP博士課程のエルケ・ツェラー(Elke Zeller)氏は、「人類の居住場所に影響を与えた環境要因を分析したところ、気温や降水量などの地域的な気候要因よりも、地形の険しさが支配的な要因として際立っていることに驚かされた」と語り、初期人類にとって山岳地帯に居住することは、移動に必要なエネルギー消費量が増大するにもかかわらずメリットがあったと結論付けている。
図1. アフリカとユーラシア大陸の地図。挿入図はヨーロッパの拡大図
図2.
上:人類が居住していた証拠のある場所の時間と緯度を示す散布図
中:15地点の移動平均を用いて計算したホミニン遺跡に関連するバイオームの多様性
下:15地点の移動平均を用いて計算したホミニン遺跡に関連する面積の粗さ。灰色の網掛けは中期更新世移行(MPT)のおおよその時期を示す
(出典:いずれもIBS)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部