韓国科学技術院(KAIST)は、同院の研究者らが、リチウム金属電池の保護層として中空ナノファイバーを使用し、水だけを用いる製造方法で負極の寿命を約750%も延ばすことに成功したと発表した。この研究成果は、学術誌Advanced Materialsに表紙論文として掲載された。
従来のリチウム金属電池の保護層技術では、電解液との人工的な界面を形成するためにリチウム金属に表面コーティングを施す。これには、有毒なプロセスと高価な材料が必要な上、リチウム金属電極の寿命向上の余地が限られていた。
図1. 水を使用した環境に優しいエレクトロスピニング法による新開発保護膜の製造プロセスの概略図
こうした限界に対処するため、材料科学工学科(Department of Materials Science and Engineering)のキム・イルドゥ(Kim Il-Doo)教授は、亜洲大学校のイ・ジヨン(Lee Jiyoung)教授と共同で、物理的手段と化学的手段の両方を用いてリチウムイオンの成長を制御することが可能な中空ナノファイバー保護層を開発した。この保護層は、植物から抽出したグアーガムを主原料とし、溶媒に水だけを使用して、環境に優しいエレクトロスピニング法によって製造された。
図2. 新開発の保護膜によるリチウムデンドライトの物理的・化学的制御
図3. 新開発の保護膜を備えたリチウム金属電池フルセルの性能
このナノファイバー保護層は、繊維内の空洞が金属表面へのリチウムイオンのランダムな蓄積を抑制し、リチウム金属表面と電解液の界面を安定化させる役割を果たすことで、電解液とリチウムイオンとの間の可逆的化学反応を効果的に制御した。
この保護層を使ったリチウム金属負極は、従来型と比較して寿命が約750%向上し、300回の充放電サイクル後も93.3%の容量を保持するという世界最高レベルの性能を示した。この保護層はまた、土壌中で約1カ月以内に完全に分解することも確認され、製造から廃棄に至るまで環境に優しいことが実証された。
図4. 新開発の保護膜の優れた分解率
(出典:いずれもKAIST)
(2024年12月12日付発表)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部