韓国の浦項工科大学校(POSTECH)は1月9日、慶北大学校(Kyungpook National University)との共同研究チームが、海産イガイの接着特性に着想を得た粘膜接着性タンパク質ナノ粒子を利用して、肺がん用の吸入治療薬送達システムを開発したと発表した。この研究成果は、国際学術誌Biomaterialsのオンライン版に掲載された。
肺がん治療においては、肺への直接的な薬剤の局所的送達を可能にする吸入治療薬が、従来の抗がん剤治療に代わるものとして有望視されている。しかし、肺の粘着バリアと免疫細胞がこのアプローチの有効性の大きな障害となっている。こうした背景を踏まえ、POSTECHのチャ・ヒョンジュン(Cha Hyung Joon)教授らと慶北大学校のジョ・ヨンキ(Jo Yun Kee)教授が主導する研究チームは、肺がん治療用に設計された粘膜接着性タンパク質ナノ粒子を開発した。
開発にあたり、研究チームは、海産イガイタンパク質の優れた接着特性を活用した。足タンパク質6型(foot protein type 6:fp-6)の酸化還元メカニズムにヒントを得て、システインを組み込むことで足タンパク質1型(fp-1)を設計し、肺がんの微小環境内で高い接着強度と正確な薬物送達能力を有するバイオ素材を作製した。これらのナノ粒子は、選択的なペイロード放出を可能にする一方で、健康な組織での放出を効果的に抑制して副作用を最小化することで、高い治療効果を発揮する。さらに、海産イガイタンパク質の生体適合性、生分解性、免疫適合性により、優れた生物学的安全性が確保され、抗がん剤の滞留時間が大幅に延長されるため、治療効果が増幅する。
肺がんの動物モデルにおいて、研究チームが開発したナノ粒子とその中に含まれる抗がん剤は、ネブライザーを介して肺に送達され、粘膜に長時間付着することで、がん細胞の転移・浸潤を抑制する効果を示した。
(出典:POSTECH)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部